5.ハビタブルゾーンと地球外生命

 2011年12月5日づけでNASAが、Kepler探査機によってハビタブルゾーン内に惑星を見つけたことを発表しました。
この惑星には Kepler22b という名前があたえられています。

 このハビタブルゾーン(habitable zone)とは、いったいなんでしょうか。
 簡単にいえば、これは惑星の表面上に液体の状態で水が存在できる恒星からの距離の範囲(領域)のことをいいます。
 Kepler探査機の目的のひとつとして、恒星のハビタブルゾーン内に、地球サイズの惑星を発見することがあげられています。(残念ながらKepler22bは、地球よりだいぶ大きそうですが。)

 しかし、どうしてこれが探査の目的となるのでしょうか。
 それは、この範囲内に地球サイズの惑星があれば、その惑星には生命がいる可能性があると考えられているからです。 (必ず生命がいるというわけではなく可能性があるだけですので、誤解しないでください。)

 ハビタブル habitable という言葉には、「住むのに適した」という意味がありますが、生命が発生するには液体の水(からなる海)が必要不可欠であると考えられているので、この範囲がハビタブルゾーンと呼ばれているわけです。
生命の発生に、本当に海(水)が必要なのか難しいところですが、我々は地球上の生物しか知らないわけで、その生物には水が不可欠と考えられるので、まず(液体の)水があるところを探そうというわけです。(しかしながらこの場合でも、水の存在は必要条件であって十分条件ではないことに注意してください。)
 また、この領域内にあっても木星のようなガス惑星では、(水の)海のような存在は考えにくいので、地球と同じようなサイズの惑星を探しているわけです。

 次にハビタブルゾーンの上限と下限がどのように決まるかについて述べます。

 ある大気モデルを用いて惑星の地表温度と惑星大気から放射される(出て行く)エネルギーの関係を求めた研究(注1)があります。 それによれば大気から放射されるエネルギーには上限値があるという事がわかります。その上限値は射出限界と呼ばれます

 惑星が恒星からこれより大きいエネルギーを受け取ると入射するエネルギーが、どんどん増えて地表面温度は次第に上昇していくと考えられます。このように惑星に入射するエネルギーが惑星から出て行く(射出)エネルギーより大きくなった状態が暴走温室状態と呼ばれます。

 この状態になると惑星上の水(海)が完全に蒸発してしまうまで温度上昇が続きます。
 こうして惑星上に液体の水が存在できなくなります。

 惑星が、恒星に近づけば、より大きなエネルギーをうけますから、どこかでこの射出限界に達します。そこがハビタブルゾーンの下限値だと考えられます。

 逆に惑星が恒星から遠ざかれば、受けるエネルギーは小さくなり表面温度は低下し、惑星上の水は凍結を始めます。温度がどのくらいになれば凍結が始まるのかは、単に温度だけではなく惑星大気の気圧にもよります。
 考えている惑星が気圧の高い大気を持てば、水はより低い温度まで液体で存在し続けます。

 また表面温度自体も、大気の組成によって変わってきます。たとえば大気に二酸化炭素などの温室効果を持つ成分がより多く含まれれば恒星から受けるエネルギーが同じでも、より高い気温を保つことができるでしょう。
 このように大気の組成や量によって変わっては来ますが、恒星から、受けるエネルギーが小さくなって惑星上の水が凍結してしまう地点がハビタブルゾーンの上限ということになります。

 このウェブページ内に、このハビタブルゾーンを計算するスクリプトを用意してあります。

Kepler22b計算

 このアプレットに、Kepler22bの場合の値(スペクトル型G 、恒星の光度0.79、軌道長半径0.849、離心率0)を入れて計算すると左の図のような 結果になります。(是非実際にやってみてください)。

 黄色で表示されているところが、計算で求めたハビタブルゾーンで赤で書かれた線が Kepler22b の軌道です。

 ハビタブルゾーンの計算方法については、[ハビタブルゾーンの計算]にまとめてありますが、上で説明しているように、ハビタブルゾーンは簡単には決めることが出来ません。
 水は1気圧という大気圧のもとでは、温度が0℃から100℃の間で液体ですが、これは大気圧がかわれば変化するし、惑星表面の温度にしても、惑星が恒星からの光をどのくらい反射するのか、大気の温室効果はどのくらいあるのか等を考慮しないと計算が出来ません。

 そのためハビタブルゾーンの範囲を計算するには、考える惑星の大気組成やその量をあたえてはじめて計算することができます。
 したがって仮定するモデルによってハビタブルゾーンの範囲には違いが出てきます。
 このような事情で人によってハビタブルゾーンの値はまちまちになります。
 このウェッブページのスクリプトでは、Kastingたち( Icarus, Volume 101, Issue 1, p. 108-128)の求めた式をつかっています。

 以上で述べたハビタブルゾーンの範囲は、恒星からの入射エネルギーを考慮した場合の惑星表面の温度のみを考えています。
 しかしこれ以外にも考えなければならない要素があります。

 スペクトル型がM型の主系列星は表面温度が低く、直径が小さな恒星です。(赤色矮星)そのため光度が小さく、したがってハビタブルゾーンは太陽などに比べて恒星に非常に近くなります。

グリーゼ581系

 たとえばGlease(グリーゼ)581というM型星は、光度が太陽の0.013倍でそのハビタブルゾーンを上で紹介したアプレットで計算すると0.111AU〜0.219AU と水星の軌道より内側の領域になります。

 さてこのような赤色矮星の表面では大規模なフレアが発生しているものが多いことが知られています。
 フレアとは恒星で起こる爆発現象の事で太陽の表面でも発生していますが、M型星では太陽よりはるかに規模の大きなフレア( 太陽と異なり星全体が関与 )が発生します。

 太陽の場合、フレア発生時にはX線、ガンマ線のほかに多量の高エネルギー荷電粒子が放出されます。太陽以外の恒星のフレアでもこれらが放出されていると考えられます。
 さてM型星のハビタブルゾーン内にある惑星は、恒星からの距離が近いためこういったフレア発生時に飛んでくる荷電粒子を、大量に受け大気が少しずつはぎとられ、やがって大気を失ってしまうと考えられます。
こういった理由からM型星の場合、たとえハビタブルゾーンの中に地球サイズの惑星が存在しても、そういった惑星には生命の存在は難しいと考えられます。

 ハビタブルゾーンが恒星に近い場合、これ以外にもTidal locking( 潮汐固定 とでも訳せばいい? )という現象の影響を考えなければなりません。


参考文献・リンク
(注1)Nakajima et al., 1992: A study on the runaway greenhouse effect with a onedimensional radiative-convective equilibrium model. J.Atmos. Sci,., 49, 2256-2266.

3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態
(上の研究を3次元に拡張)

惑星の気象学 暴走温室効果

ハビタブルプラネットの起源と進化 第一回
ハビタブルプラネットの起源と進化 第二回
ハビタブルプラネットの起源と進化 第三回


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