ここではハビタブルゾーンを計算する方法について述べます。
そのために、まず惑星の温度を計算する必要があります。
ただし惑星の表面温度を計算するには、大気組成や惑星の軌道傾斜角など様々な要因を考慮する必要がありますが、
ここではまず、そういった惑星個々の事情を考慮しない平衡温度を計算するところからはじめます。
これは惑星が平衡温度Tp(絶対温度)の黒体であると仮定して、Tpの黒体が放射するエネルギーと外部から入力するエネルギー(恒星からの放射)がつりあっているとして求めます。
まず、惑星から単位時間あたり放射されるエネルギーを求めます。
Tpの黒体が単位時間・単位面積あたり放射するエネルギー I はStefan・Boltzmannの法則から
I = σTp4……(1)
となります。
ここでσはStefan・Boltzmann 定数で、その値は5.6703×10-8J/s/m2/K4です。
惑星の半径をrpとするとその表面積は4πrp2なので、単位時間あたり惑星から放射されるエネルギーEpは
(1)と、この表面積をかけることで
Ep = 4πrp2σTp4……(2)
となります。
次に単位時間あたり惑星に入射する恒星からのエネルギーを求めます。
恒星の光度を L とします。
光度というのは、恒星が単位時間に放射するエネルギーになるので、恒星が温度Ts(黒体と仮定した場合)、
半径rsの球体だとすると、(2)式と同じように考えて
L = 4πrs2σTs4……(3)
と表すことが可能です。
太陽の場合、この値は太陽光度(Solar Luminosity)と呼ばれていて、その値は 3.826×1026J/s です。
恒星の放射が球対称に広がると仮定すると、惑星の軌道半径が Rpの場合その軌道上で
単位面積を単位時間に通過する恒星の放射エネルギーは、(半径Rpの球の表面積が4πRp2だから)
L/(4πRp2) になります。
惑星に入射するエネルギーは惑星の断面積 πrp2を単位時間に通過するので、惑星に
単位時間に入射する恒星のエネルギーEsは、
Es = πrp2*L/(4πRp2)……(4)
ただしこのエネルギーが全て惑星に入射するわけではなく、一部は反射されるのでその(エネルギー)反射率を A とすると、
Es = (1-A)*πrp2*L/(4πRp2)……(4)'
となります。
A が0の時が反射なしで1の時が入射エネルギーがすべて反射される場合になります。
惑星の平衡温度を求めるには、Ep = Es とおいた式をTpについて解きます。
4πrp2σTp4= (1-A)*πrp2*L/(4πRp2)
Tp4= (1-A)/(16πσ)*(L/Rp2)
Tp= (1-A)1/4/(2(πσ)1/4)*(L1/4/Rp1/2)……(5)
さらにここで計算しやすいように、光度 L を太陽光度 Lsun=3.826×1026J/s を1とする値で、
惑星の軌道半径Rp を天文単位を使って表すようにします。
Tp= (1-A)1/4/(2(πσ)1/4)*((L/Lsun)1/4*(Rau/Rp)1/2)*(Lsun1/4/Rau1/2)
=(1-A)1/4*(Lsun/(16πσRau2)1/4*Ls1/4/R1/2……(5)'
上の式でRauは1天文単位でその値は1.4959×1011m、LsはLs =L/Lsunで太陽光度を1とした単位で表した恒星の光度 、
Rは、R=Rp/Rau で
天文単位で表した惑星の軌道半径を表します。
上の式で定数部分(Lsun/(16πσRau2)1/4にそれぞれの値を代入して計算すると、惑星の平衡温度を求める式は、
Tp=(1-A)1/4*278.3*Ls1/4/R1/2……(6)
逆に、平衡温度Tpを与えて、惑星の軌道半径R(天文単位)を求める式をつくると、
R=(1-A)1/2*7.745×104*Ls1/2/Tp2……(7)
となります。
ハビタブルゾーンとは水が液体の状態で惑星上に存在できる範囲のことですが、水が液体の状態で存在できるかどうかは、
温度だけでなく気圧もあたえないと決めることが出来ません。
したがって考える惑星の大気組成やその量を与えた上で惑星の反射率や温室効果などを求めて、初めて計算することが出来ます。
そのため仮定するモデルによってハビタブルゾーンの範囲には違いが出てきますが、 普通は地球と同じような大気組成を仮定して計算するようです。
まず温室効果などを無視して1気圧下で水が液体でいられる温度摂氏0℃~100℃でいられる範囲を(7)式を使って
太陽系の場合について求めてみます。
なお反射率は無視して A = 0 とします。
(7)式にLs=1(太陽系の場合なので)、Tp = 373.15K(摂氏100℃)を代入すると下限値0.56AU、
Tp = 273.15K(摂氏0℃)を代入すると上限値1.034AUという値が得られます。
(AUは天文単位を意味します。)
太陽系のハビタブルゾーンとしては(上で述べたようにモデルによって違いがありますが)0.97AUから1.39AUという値が(地球の大気組成を仮定した場合)
よく用いられています。
上の計算値は、これと比べると地球軌道より内側に広く、外側に狭くなっています。
この原因(のひとつ)としては、温室効果を全く考慮していないことがあります。
まず内側については気温が上昇すると水が蒸発し大気中の水蒸気濃度が上昇することで温室効果が更に強まる(水蒸気は二酸化炭素より
はるかに強力な温室効果をもっています)ことで、更なる気温の上昇をまねき最終的に惑星上の全ての水は液体の状態ではいられなくなります。
(暴走温室効果)
この効果のため(7)式で計算した値より外側で、水は液体状態ではいられなくなります
一方外側については、温室効果のため(7)で計算した値より外側でも高い気温が保たれより広い範囲で水は液体状態を保つことが
出来ます。
次に(6)式、(7)式に温室効果(など)を取り入れる方法を考えます。
大気中の温室効果ガスによる熱吸収率を、a とすると惑星から放射されるエネルギーEpのうち
(1 - a )Epは宇宙空間に放射され、aEpが大気に吸収されます。
さらにこの吸収分のうち半分は宇宙空間に放射されるので結局宇宙空間に放出されるエネルギーは、
(1-a)Ep + aEp / 2 = (1-a /2 )Ep
となります。
これを考慮してEp = Es とおいた式を、上と同じように Tp について解けば
Tp=( (1-A) / (1-a /2 ) )1/4*278.3*Ls1/4/R1/2……(6)'
となります。
この式を使って、ハビタブルゾーンを計算するには反射率(アルベド)A と熱吸収率a が必要ですが、これらは定数ではなく温度が変われば変わります。
結局これらの値は惑星の大気組成・量や水の量を設定して推定しなければなりません。
Kastingたち( Icarus, Volume 101, Issue 1, p. 108-128 :アブストラクトがこちらで読めます)は
惑星の大気組成などを仮定して、温室効果などをとりいれたハビタブルゾーンを計算する式を求めました。
その式は、
d( AU ) = ( Ls /Seff )1/2……(8)
dは天文単位であらわした距離で、Lsは上と同じく太陽光度を1とした時の恒星の光度、
そしてSeffは、恒星のスペクトル型によって異なる係数で、ここに以下の値を入れることでハビタブルゾーンの
下限と上限を求めることが出来ます。
まず下限は、スペクトル型Fの恒星に対しては1.90、G型に対しては1.41、K型とM型にたいしては1.05を与えることで求めます。
上限はスペクトル型F、G、K、そしてM型の場合それぞれに対して0.46、0.36、0.27、0.27を与えることで求めることが出来ます。
この式を使って太陽系の場合のハビタブルゾーンを計算すると0.97AUから1.39AUよりかなり広くなります。ためしに計算してみてください。
[ハビタブルゾーンの計算]にこの計算をおこなうアプレットがおいてあります。
なお太陽はG型の恒星です。