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★ 『 あなた、坊主がいいわ!坊主にしなさいよ!… えっ?』

 

YサンMサンとの初顔あわせから僕は一度地元に帰り

それまでに残っていたライブスケジュールを全てこなし終えると


来たるべきNEWアルバムの制作に向かうため

旅行にしては少し多い荷物をまとめ東京に向かった…

11月某日

渋谷駅東口から六本木方面へと続く長い坂道を事務所の人間と歩いていく

これからアーティストイメージとやらを決めに行くらしい

着いた先は青山通りとの交差地点にある

とあるマンションの一室。ナンとかT子美容研究所?と看板が

ここの所長でもあるT子サンの名前

女性の方なら一度は聞いた事があるそうだ。美容界のドンらしい


なにをこれからされるのやら

まな板の上の鯉は暴れることもあきらめ

静かに出されたお茶をすすりながら来るべき時を待った 

事務所の人にこれから何をすんの?と恐るおそる聞いてみると


どうやら業界向け宣伝用のアー写(アーティスト写真)を撮るという事


最初からそう言えよ〜ビビって損した


そして、T子サン入室 『あなたがTakahiroサンね初めまして…』

とT子さんは優しい物腰でしゃべりだした、初老の品のイイおばさまといった感

聞くところによるとこの方はメイクアップの技術を人相学の域まで高め

実際顔を見ただけでその人の性格や運命が分かるという


各界の著名人の運命も実際会ってピタリとその後を当ててきたらしい…

しばし雑談の後、僕の顔をじっと見つめ突然T子さんが口を開く

『…そうねぇ…あなた、坊主がいいわ!坊主にしなさいよ!…』 


… えっ?ボ。坊主…ですか(なんでやぁねん突然コノ人)

昔から坊主に抵抗があり坊主の受験校やクラブをことごとく敬遠してきたのだ


『坊主はちょっとぉ〜』と僕、T子サン『似合うのに〜』 見たんかいっ?(笑)

と押し問答の末、当時肩まであった髪を後ろでくくることで意見一致

T子さんいわく『 侍 』のイメージらしい…

武士は食わねど高楊枝…ん〜前途多難の幕開けである(笑)

 

★ スタジオ入り! M氏『 ・・・ 』 

 

11月某日都内

サウンドプロデューサーM氏から本チャン前の仮トラック

(生楽器や声をかぶせて行く前のカラオケテイク 最近はある程度コンピューターで先に作り込む)

が出来たので聞きに来いとの連絡が入り、M氏のプライベートスタジオまで足を運んだ


着いた先は細長い三階建てのビル

こじんまりとした入り口の階段を三階までドンドンと上がって行く2階はクラブ(DJのね)になっていて


開店前の人気のなさがかえって僕の気を煽り立てる

『おはようゴザイマ〜ス』業界は何故か昼でも夜でもこれである

『うィス…』マックの画面に向かったまま低いトーンで返事が返る


しかしその重い空気を押しのけるかの様なオーラが向かいのソファから漂って来た

『 どうも! 』とぱっと目を引く顔立ちの女の子が座っている

『カ;カワイイ…』と愛想笑いをしていると後ろから


『 あ。彼女、今度●☆からデビューする◇チャン…』と低い京都弁が帰って来た

その言葉の裏にはお前、俺の大事なお客にイラン事するなよ〜。

てな意味が隠されていることはいうまでもない


そしてトイレからスーツ姿のマネージャーらしき男も帰って来た

じゃMサンそう言うことでよろしく〜と二人はそそくさと帰っていった…なんだオモシロクナイ(笑)

我に返り〜M氏に向って

『 いろんな仕事するんですねぇ? 』と僕

『 まぁ、仕事やからなぁ。 』

画面にかじりついたままM氏が一言


『 ホントに作りたいものと、売れるものは必ずしも同じとは限らん

まぁ、そのうちお前にも分かるやろ…さぁ、曲のKEY決めよか!』


そう言ってM氏は立ち上がる

重いこと言うなぁ。相変わらず …

 

★ 仮歌録り   

 

仮歌をいれるためマイクをセットし、またもやマックの画面に向かう

本チャンの歌はまた別のスタジオで録る訳だが

そのオケを作るためPCに曲のキーとテンポを決め仮歌を入れ


それを聞きながらいろんなミュージシャンが楽器をかぶせていく

この時点で適正なキーを決めておかないとその後変更は効かない

完成形をイメージしながらの地味で慎重な作業である…


『 もうちょいテンポ早く、KEY一つ上げで… 』

などのやり取りを繰り返し、一曲づつ決めていく

ライブで何度となく歌ってきた曲だからそのままでも良さそうなものだが

別のクリエイターがオケを作るとまた違った感じに聞こえ別のイメージも沸いてくる


それにキーを少々上げた方が派手で聞こえがイイ

中でも一曲だけこれはファルセット(裏声)でナンとかなるだろうとたかをくくってた曲があり

仮歌録りもなんとなくごまかして歌った曲があった


しかし、この曲に本チャン録り時、泣かされる事になるとは…その曲の名は?



★ オーバーダビング   

 

某日、仮歌の乗った仮オケにこれからいろんなミュージシャンの方が楽器を録音しに来る


キャリアの長いツワモノばかりだ

驚いたのは出音と見た目キャラがあまりにも違い過ぎる事(笑)

音だけ聞いてるとかなりコワモテ近寄りがたい印象があるが

みんないい人でよく気を使ってくれて、かえってこちらが恐縮してしまう

キーボード弾いてくれたAサンは○ーシャのツアーバンドのバンマスまでやってたって聞いてたので

一体どんな人だろうと想像を膨らませてたが

拍子抜けスル程、シャイで腰の低い方でした

そんな 皆さん、やはりプロ中のプロ、だいたい3テイクぐらいで曲を仕上げていく


その日に初聴で3テイクですよ?

こういうミュージシャンのギャラは時給換算なんですが

売れっ子になると1日何組も掛け持ちするそう

いったいいくら貰ってるんでしょうねぇ… 謎

 

★ 本チャン歌入れ開始、前日。  

 

オケも大体仕上りいよいよ明日歌入れである

一人でやってる時は好きな時に歌い好きな時に録音していたが

今回はそうはいかない、高額なスタジオを数日間完全ロックオン

この間に5曲を全て歌い切らなければならない

何に一番気を使うかというと時は12月も半ば

やはり『風邪』である


言い訳無用のこの世界、本日は歌えませんでは済まないのだ

こんなに喉に気を使った事は今までなかったなぁ

レコーディングの間の仮住まい中

湯船にお湯張って湿度上げて寝てみたり足湯に浸かったりと

『み○もんた』の番組顔負けの健康三昧


明日はいよいよ本番

風邪はナンとかひかないで済んだのだが.…レコーディング途中トンでもない過ちを… 

 

★ 中目黒集合!  

 

いよいよ、歌入れ本番当日

歌入れのスタジオはMさんスタジオとは別、都内は中目黒

歩けば芸能関係者にぶつかる芸能都市である、住んでる人も多いしね

夜中行うのがよくあるRECのイメージだが


プロデューサーY氏の提案により夜中ダラダラやるより

昼間にビシっとやろうと言う事になり初日 都営中目黒駅お昼一時集合

足湯上がりの(笑)少し緊張気味のTakahiroは一番乗り、続いてY氏到着


遅れて超夜型人間Mサン到着

『いやぁゴメンゴメン。起きれへんでぇ…(苦笑)』

Mサン普段は優しくていい人なのだが

スタジオに入ると急に人が変わる(笑)ハッキリいってコワイ(爆)職人肌丸出し

歌入れのスタジオはココから歩いて十分程らしい

先を行く二人はよく聞く名前を出しゴシップネタ連発で会話に華を咲かせている


僕は耳をダンボにしながら二人の後に続いて行った

『へぇ〜。あの人が…』(笑)団地のおばチャン並の驚きの連発である(笑)恐るべし芸能界… 

 

★ 歌入れ〜直前! 

 

着いた先は中目黒『 RES 』スタジオというところ


ここで最近RECしたアーティストは〜分かり易い所で○○ストリーとか


個人的に好きな●△スタルKとか…

彼女はホント歌うまいよね〜

あれでまだ、十代でしょ?末恐ろしいね…。彼女の歌入れ時エピソードも後ほど〜

『オハヨウゴザイマ〜ス』

何故かこの業界いつもこれである、スタジオの受け付け嬢にも挨拶


聞く所によると彼女は来年デビュー予定らしい

受付をしながらその時を待ってるらしいのだが

あれから1年経つけどいまだにだって…よくある話だが…。

スタジオ責任者兼今回の録音のマニュピレートをして頂く 『 I 』サンとご対面


何回失敗してもすっとぼけた顔して付き合ってくれる優しい人でした

ちなみにSEED(4曲目ネ)で僕が弾き語ってるギターはIサン所有のもの

いくつかある、スタジオで一番奥の広いスタジオに通された。

Iサンと久しぶりに会ったというMサンやYサンはしばし談笑、でもやはりゴシップネタ


当然、タカヒロの耳はまたもや ダ・ン・ボ(爆)『えっ!その人がソンナ事を!?

え〜その人好きだったのに〜。』あぁ。哀しき芸能界… 

 

★ 歌入れ〜開始!! 

 

Mサンが持ってきた、曲のデータをスタジオのマックに移行


手際よくIサンがシンクロさせて行く

『はい!いいよ〜どれからでもどうぞ〜』と『 I 』サン

『Takahiroどれから行く?』とM氏

『ん〜じゃぁライブで歌いなれてるんでrequire(リクワイア)から!』僕


一度リビングに出て、スタジオからガラス越しの三畳ほどの歌入れブースへ行く

みんなの顔は見えても声はまったく聞こえない

ここからはヘッドホンとマイクでのディスカッションだ


モニター返しの音量を調節、『 I 』サン僕のキューを待ってる

小さく僕は頷いた、『♪!♪〜♪』曲のイントロが始まった!

遂に小さい頃からの夢であったその瞬間はスタートした… 

 

★ 『 ええねんけどなぁ … 』 

 

『 真っ白なぁ壁がぁ♪〜…息をとぉめぇてぇ〜♪ 』

完奏…熱唱である

ガラスの向こうをチラリと見た

みんな何やらモゾモゾ言ってる、気になる

こちらに声が返ってこない、ナンか言えよ〜


とあたふたしてるとヘッドフォンから『とりあえず今の聞きマース』とM氏

今の歌入りがプレイバックされる…

しばし沈黙…向こうでみんなパクパク言ってる

気になるッ!ナンか言ってぇ〜衛星中継かっこれはっ!


そこでM氏の重〜い京都弁『 ええねんけどなぁ〜●△×**□…もう一回 』

自分の中の快進撃はいともたやすく撤回…自分で録音してたら結構OKラインだけどなぁ


でも指摘された箇所は的を得ているサスガプロだね

しかし録音時のM氏のコワキャラはナンとかならないものか

自分で言ってたけどここまで変わるかぁ〜??

♪…『はい、もう一か〜い』 … 息も止めまくりである … 

 

★ 『 あったり前じゃ〜 』 

 

2時間程経過〜

『 ちょっとこっち来て、きいてみるかぁ〜。 』 

僕を呼び戻すM氏、慌ててコンソールルームに戻る

デカイモニタースピーカーで『 リクワイア 』をプレイバック…皆聞き入る

M氏『 もうちょい手こずるかとおもたけど、意外とすんなりいったなぁ 』 


『 いやぁ。そうですかぁ・照・〜歌い慣れた曲やし〜』

なぁーんて言いながらも

内心はこちとら自宅録音で賞まで獲った意地があるっちゅーねん! 


日本で5本の指イリよ〜ゴ・ホ・ン! ]と一人ほくそえんでいると

『 よし、これにコーラスワークかぶせて後でもう一回歌おか〜 』

 … えっ?まだ歌うの〜? 

『 あったり前じゃ〜コーラスかぶるとまた歌が乗ってくんねん!』

ってこれは仮歌かぁー? … ボーカルブースの壁も白かった … 

 

★ 『 今のダブりま〜す♪ 』 

 

メインパートに三度上下の三声のハモリをかぶせて行く

かなり高めのキーで歌ってるので上のハモリがキツイ

ファルセットと地声の境目は特にピッチが取りにくい

『♪コ〜トバぁ〜…問いかけタぁ〜♪』…プチっ!


…『 今のダブりま〜す 』 

ダブリング=同じピッチのパートを何本か重ねることによって声に厚みを持たせるのである

(R&Bの本場LAの女性DIVA系の歌モノは

コーラスパートだけで何十本と重ねるらしい気の遠くなる様な話…)

普通は二、三本重ねる程度これだけでもずいぶん違う


それでも言葉の活舌とリズム感が悪いととても聞けたもんでは無い

下のハモリを手元に置かれたキ−ボ−ドで確認、何パターンか試して録る


感じのいいのを残して、またヘッドフォンから『 今のダブりま〜す 』のトークバック

これの繰り返しでコーラスワークを構築していく

肉声が、オケに乗るだけでずいぶん曲の感じが変わって行くのが分かる

つくづく声の存在感を再認識

『 …はぁい〜s 今のダブりま〜す …ブチっ!! 』

 … にしてもMサンもうちょっとSMILE、スマイル;怖スギ。 … 

 

★ 『 ちょい休憩〜 』 

 

『 ●×〜□○△…♪(汗) 』 

 『 よーし、コーラスいい感じで録れたぞ編集する間、ちょい休憩〜 』 


『 (汗)…おっ 待ってました!』 ちとハリキリすぎた(煙)

肩で息してリビングになだれ込む(疲)

『 張りきってるねぇ。 』

 タバコをくわえたY氏の声がかかる

『 初っ端から飛ばし過ぎましたかねぇ(苦笑)?』 

『 Mサン録りの時厳しいからなぁ〜(笑)

でもオマエMサンいい方だぞ 


この前ココで録ってた●スタルKのプロデューサーなんかまた輪をかけてキツくてなぁ

歌ってる途中突然『 違うっ(怒)!』つって止めるんだよ

で何も言わずに歌い直し、彼女いつも半泣きで歌ってるよ


ま、あの子才能あるからそれでいいもんできるんだけどね … 』 

とテレビモニターに映るMTVを眺めながらポツリとつぶやくY氏 

… フ〜ンみんな頑張ってるんだねぇ〜俺もガンバロ(炎)…  

再始動!それから … ♪小一時間後 …

ようやくリクワイアのメインメロディを歌い終える

今歌い終えたばかりのテイクをミキサールームで聴く


ここはビルの最上階にあるので都内が一望

夕暮れの街が綺麗だ…ん〜初日で完全燃焼(笑)??

…いやいや(汗)イイ感じで初日は終了〜。

明日はMサン率いるプライベートなバンドのライブがあるとかで、お休み


ライブ会場に応援に駆けつける約束をしてその日は解散〜お疲れ様デシタ