錦華鳥には日本で比較的容易に見ることができるものだけで15〜16種ほどの変異があります。
それはノーマル(原種・野生型)の状態から色を部分的に変える、時には羽毛の形状を変えるなどの変異遺伝子によって発現します。
個々の変異遺伝子がもたらす特徴を考える上で、それらが常に「ノーマルから何をどう変えるのか」を考えてください。

たとえばフォーン変異は「茶色をつける」のではなく「ノーマルから黒を抑えた結果で茶色い」のであり、オレンジブレスト変異は「胸にオレンジ色をつける」のではなく「ノーマルの胸などへの黒色素の発現を抑える」ことによって残ったオレンジ色素をさらに強く発色させる働きをしているのです。
もちろんホワイト変異はノーマルの羽毛上のすべての色素を抑制している結果で白い(=色の出現がない)ということです。
多くの変異はこのように「色素の引き算」ですが、逆にノーマルでは黒くなかった(黒が抑制されていた)部分に黒を出させる変異もあります。

15〜16種と書きましたがそれは単独の変異としての数であり、「フォーン遺伝子」1種類だけで発現した「フォーン錦華鳥」、「ブラックチーク遺伝子」だけで発現した「ブラックチーク錦華鳥」というふうに数えたものです。
現在、実際にはそのような単独の変異種のみならず、2種3種それ以上の変異遺伝子を併せ持ち同時発現した変異結合種が非常に数多く存在しています。

変異結合について
              (下線を引いた文字をクリックすると画像が出ます)
単独の変異が2種類以上結合して「変異結合種」ができ、それらも品種として存在しています。
上の例であげた「フォーン」と「ブラックチーク」が結合すれば「ブラックチーク・フォーン」という品種ができます。

しかしそれを作るには単純にフォーンとブラックチークでペアを組んでもブラックチークフォーンの仔はできません。それでは変異結合種はどのようにして作るのでしょうか。変異の結合とはどういうものでしょうか。
まず遺伝の知識が必要ですが、難しく考えなくても簡単な基本を理解すれば大丈夫です。
遺伝は難しい、と挫折した人を多く見てきましたので「簡単な・錦華鳥のための遺伝のページ」を作成中です。

変異種を交配していくうえでは、それぞれの変異の遺伝形質を理解することが必要です。
先の例ですと「フォーン」は性染色体上の劣性遺伝子、「ブラックチーク」は常染色体上の劣性遺伝子です。
まだ「遺伝のページ」が出来ていませんので、遺伝形質が異なる2種類の遺伝子の結合のさせ方はとりあえずこちらをごらんください。錦華鳥の各変異の遺伝形質は下の表のとおりです。簡単な説明はこちらを。



遺伝子の運ばれ方について少しさわりの部分だけ説明します。
錦華鳥の変異の多くは常染色体上の劣性遺伝であるのでこれを例にとると、
劣性の「ブラックブレスト」どうしのペアの仔は「ブラックブレスト」になります。
これは父からブラックブレスト、母からもブラックブレスト、同じ種類の変異遺伝子を両親から渡され、仔に同じものが2個揃ったことによりその変異の表現型として出現できたということです。
同じようにして劣性の「オレンジブレスト」どうしのペアの仔は「オレンジブレスト」になります。

では、父「ブラックブレスト」母「オレンジブレスト」の仔は何になるでしょうか?
父から受け取るのはブラックブレスト遺伝子、母から受け取るのはオレンジブレスト遺伝子。
仔には同じものが2個揃いません。よって仔は錦華鳥本来の姿である「ノーマルグレイ」となって生まれます。

上記のケースで生まれたノーマルグレイどうしを交配したらどうなるでしょうか?

彼らはノーマルグレイの外観であるものの、ブラックブレスト遺伝子とオレンジブレスト遺伝子を1個ずつ隠し持っています。
そういう鳥が自分の持つ遺伝子を自分の仔に伝える時「ノーマルとノーマルを渡す」「ノーマルとブラックブレストを渡す」「ノーマルとオレンジブレストを渡す」「ブラックブレストとオレンジブレストを渡す」という4通りの渡し方をします。
こうしてこの両親から生まれる子供のなかで、父からも母からも「ブラックブレストとオレンジブレスト」を渡された子供だけがそれぞれの変異遺伝子を2個ずつ併せ持つことになり、変異結合種「ブラックブレスト・オレンジブレスト」となって発現できるのです。
発現する確率は(4通り×4通り=16)で16分の1、つまり6.25%です。

名称について

日本で「オレンジブレスト」「ブラックチーク」などカタカナで呼ばれている名前は品種名ではありますが、正しくは変異遺伝子の名前です。
たとえば日本でブラックチークを「頬黒」と呼んだり、古くはグレーイザベルを「古代」と呼んでいましたが、それらは呼称です。単に呼び名であり正式な品種名ではありません。
クリーム色をしているからとクリーム、薄い灰色だからとシルバー、黒いからとチャコール、中間色だからとフォーングレーというふうに呼んでいる人もいますが錦華鳥の品種は個々の鳥を見てその体色で決めているのではありません。
それは普遍的でなく、どこでも通用する名でないばかりか誤解と混乱を招きます。
なぜならそういう名の変異が実はちゃんと別に存在し、たいてい全然別の外観のものであったり日本にいるはずのない変異であったり、または変異名品種名としてどこにも存在しないこともあります。
これは錦華鳥の情報が日本に乏しいせいで何と呼んでいいかわからず仕方ないのだと思います。
海外のポスターやウェブサイトの写真だけを見て似た感じの鳥の名前を当てているのかもしれません。

錦華鳥を正しく品種名で呼びたいと思っています。つまり変異遺伝子名で呼びたいと思っています。

このホームページでは呼称を使わず正式名称で書いていきます。
変異結合種は、ですから名前が長くなります。セキセイインコでもそうですが変異が多いとそうなります。
ただ、呼称といっても普遍的で許されている呼び名もあると思います。
セキセイで「イエローフェイス・オパーリン・クリアウィング・ブルー(系)」を「レインボー」と呼びます。
そういったものと同様の呼び方が「オールオレンジ」だと思っています。
オールオレンジは日本独自の呼び方ではないかと思います。しかし「ブラックフェイス・ブラックブレスト・オレンジブレスト」という正式名は書くにも話すにも長すぎます。
このうえにフォーンが結合したものを「オールオレンジ・フォーン」、さらにイザベルが結合したものを「オールオレンジ・イザベル」と呼ぶことはすでに一般的になっていると思います。

錦華鳥を正式名称で呼ぶうえでもうひとつ、これは私の考えですが、英語で名づけられたその変異名を「原型で」呼びたいと思います。
カタカナ=日本語にしてしまう以上、breasted(ブレステッド)、cheeked(チークド)など〜edにして書いたり呼んだりする意味はなく、むしろ単語本来の意味をわかりにくくすると思うからです。
英語では「Black Breasted Zebra Finch」と書くでしょうが、日本語では「ブラックブレスト錦華鳥」と書くべきだと思っています。

略式表記について

正式名称で呼びたい、とはいうものの、先にも書きましたがとても長いです。
たとえば「オールオレンジ・イザベル」の正式名は
「ブラックフェイス・ブラックブレスト・オレンジブレスト・フォーンイザベル」です。
こうやって文章にするとき、それは非常に長ったらしいため書きづらく読みづらい。
そこで略記号を用いることにします。略式表記一覧表をごらんください。
この略式表記はヨーロッパでもアメリカでも共通です。国によって一部違うのもありますが通じます。
長くなるときには略表記を使って書いていきます。BCフォーンというふうに部分的に使うこともします。

ところでオールオレンジは「ブラックフェイス・ブラックブレスト・オレンジブレスト」ですが、
その3つの変異の結合型ということなら並べる順番はどうでもいいのではないか?
という疑問を持たれるかもしれません。私もこの場合の順番はどうでもいい気がします。
海外の文献を読んでいても、必ず一貫しているとはいえないようです。
ただ、略式表記で上記のオールオレンジを記したときは「BF BB OB 」となりますが
それを逆に並べたときには「OB BB BF」となり真ん中にBばかり重なってしまうので私はそうならないように順番を決めただけです。

厳密な決まりではないですが、一応、からだ全体の色を変える変異(フォーン、CFW、ライトバック、イザベル、フォーンチーク、ユーモなど)は、部分的に色や形を変える変異の後に書きます。
また、全体の色を示すからといって「ノーマル」は当たり前なのでつけなくてもいいです。単に「ブラックチーク」というときはBC以外に何もないノーマルバージョンを指します。
それとペンギンやパイドはパターンを変化させる変異なのでそれは最後に来ます。
(例)BF BB フォーン、OB CFW、BBライトバック、BCユーモ、イザベルペンギン、BCフォーンパイド。

スプリットの表記

「スプリット」は遺伝用語として使います。2個揃わないと外観に表現されない劣性遺伝子を1個だけ隠し持っている状態のことです。
上記の「変異結合について」で、BBの父とOBの母から生まれた仔はノーマルグレイになると書きました。
そのノーマルグレイはBBスプリットでありOBスプリットです。
そのような鳥を書き表すとき、スプリット記号を使います。
略式表記一覧表の最後に書いてある「/」←このスラッシュを使って隠し持った遺伝子をそのあとに列記します。
上記の鳥なら「ノーマルグレイ/bb ob 」または「NG/bb ob 」というように、/以降に書くスプリット遺伝子は小文字で書いていこうと思います。しかしべつに大文字でもかまいません。

じつは人によっていろいろな書き方がされています。
「/」のかわりに「 sp 」を使って「ノーマルsp BB OB」と書く人もいますし、スプリットという言葉を使わず同じような意味としてヘテロという言葉を用い「ノーマル(bbヘテロ、obヘテロ)」という書き方をする人もいます。
遺伝の知識があり正しく意味を分かって書くならば、お互い書き方が多少違っても通じるものです。

品種とは?

錦華鳥の「品種」は50種以上ある、といわれて久しく、現在はそれ以上確認されているでしょう。
「品種」というのは、単独の変異種と、それらの複数が結合して出来た変異結合種だけを指します。
結合が完了している部分だけが品種名です。
つまり表現型として目に見えているその姿、それが品種です。

ときどき「三代前まで遡らないとその鳥の品種は確定できない」などという情報がネットに流れ混乱を招きますが、そんなことを言ったら殆んどの鳥は品種が確定できないことになってしまいます。
それは多分、隠し持った遺伝子は判らないという意味なのでしょうが、その意味でもおかしい。逆に遡るほど確定できません。親から確実に継いだ遺伝子の分しか確定はできません。あとは繁殖をした結果を見てスプリットを探ることになります。
しかも、再度いいますが「品種」というのは表現されている部分だけです。

/以降に書くスプリット遺伝子は関係ありません。むしろ、スプリットで他の遺伝子を持っている鳥はその遺伝子が邪魔をして単独品種、変異結合品種としての外観が崩れることもあります。崩れた場合は「ちゃんとした品種」とは呼べなくなります。

さきほどから例にあげている「ノーマル/bb ob」は、ですから雑種です。
雑種という言葉は聞こえが悪く、価値の無いつまらないもののように思えるかもしれません。
事実その鳥はスプリットとして持っているBB遺伝子の影響が出てチークパッチが少しにじんだように広がり、フランク上の白い水玉模様は少し楕円になるでしょう。さらにOB遺伝子の影響で黒い胸バーやゼブラストライプにわずかにオレンジ色の差し毛が入ってしまうでしょう。
こうなった鳥でもノーマル表現型であることに間違いないのですから、一応はノーマルグレイという品種ではあります。しかし「ノーマルグレイ」としてショーに出品できません。審査の対象になりません。

いま「ショーの審査対象にならない」と書きましたが、これは海外でのことです。
海外のショーは権威も規模も日本とは比較にならないほど大きく、当然基準も厳格です。
その海外基準が認めた「品種」が50種、と言われているのです。

「雑種」という言葉は素人には聞こえが悪いです。
でも「スプリットを持った鳥」と言えば同じ鳥でも印象良く聞こえませんか。
「雑種=スプリット持ち」の鳥は結合品種を作るたの前段階の鳥と考えれば重要な鳥です。
ですから鳥の紹介をするときに判明している分のスプリット遺伝子までをわざわざ記すのです。
錦華鳥の変異遺伝子には、スプリットの状態で持っているだけで外観にわずかに影響をもたらすものも多いです。影響を出さない変異もあります。「この鳥は何のスプリットを持っているか」の見分け方も説明していこうと思います。