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〈 ユーモ 〉 Eumo 

略表記はEM、常染色体上の劣性遺伝形質である。


ユーモ遺伝子の働きとして、ノーマルの羽色全体に黒色素を追加し、頭部〜背翼面を黒っぽくする。
腹側全体も下尾筒にいたるまで白い部分をなくする。

ユーモ(Eumo)という名前は「黒色素ユーメラニン (Eumelanin) 」から取って名づけられた。

このユーモという変異には特異な点が多い。
まずオス・メスともに黒いロア。
日本にいる品種でロアが黒くなるメスはユーモだけである。(メラニスティックに注意!)
そしてオスにチークパッチがない。オスメスともにチークエリアは体色と同じ「すすけたような黒」である。

もっとも特異な特徴は、羽毛質である。
「シルキー」と形容されているが、全体の毛質が「糸毛」状態なのである。
そのためツルッとしたというかヌメッとしたというか、何ともいえない手触りであり、また羽毛にボリュームが出ないのでほっそりとしたボディに見える。
体全体の糸毛質はあまり顕著ではないが、翼の風切は非常に特徴的である。(クリックで拡大)
      
このスカスカな風切羽は鳥としては困った状態であるが、これがユーモの最大の特徴である。
他変異と結合して体の色がどう変わろうとも、このスカスカな風切羽は引き継ぐ。

鳥として困った状態とは、つまりこの風切羽では飛翔が困難ということである。
距離として1メートル飛べるかどうか、高さとして金カゴ飼育で上段の止まり木まで飛び上がれない。
低い位置から何段かに止まり木を設置する必要がある。
広い禽舎内で放し飼いするような飼い方はできない。

しかし飛べないのは羽毛状態のせいだけであり、体が虚弱とか羽ばたく力が弱いといったことはない。
体質は他の鳥と同じである。
しかも飛べないことを俊敏さで補おうとするのか非常にすばしっこい。


【 オスの外観 】
全身のベースカラーは木炭で拭いたようなすすけた黒(ダークグレイ)である。
BFのようにロアが黒い。
喉ストライプはベースカラーが暗いので目立たないが黒い細かい縞がある。
その下の胸バーを含む下尾筒までのエリアは真っ黒である。真っ黒が理想だが下尾筒には少しの白を含むものもいる。
尾は黒である。尾カバーも真っ黒であることが望ましいが、白いバーがスポット状に縮小されて数個の白点を示すことが多い。
チークパッチは無くなり、そこにベースカラーのすすけた黒が置き換わる。
チークパッチが完全に無くならずロアにそって細くオレンジ色素の痕跡を示すこともある。
フランクは黒になろうとしている。少しの褐色色素を含む。基本的にスポットは無い。

【 メスの外観 】
ロアが黒くなるというメスにしては珍しい外観である。
肛門付近から下尾筒にかけては真っ黒である。
上尾筒と尾と尾カバーも黒。オスもそうであるが、尾カバーに数個の白いスポットを示す。
そのほかの体全体はダークグレイである。

【 ヒナと若鳥の外観 】
       
成長にしたがいベースカラーがダークグレイになるが、幼いヒナのときは全身が実に黒い。
若鳥のときにこれほど黒っぽい変異種は他にいない。
巣立ち前後のヒナは他のどのダーク変異とも違った例外的な黒さである。

【 スプリットの見分け方 】
ユーモ遺伝子を1個だけ隠し持った状態の鳥を見分ける方法はない。外観から判別できない。

【 ユーモと他変異との結合 】

ブラックチークとはひじょうに相性が良い。何ら衝突する部分がないだけでなく、ユーモのフランクにわずかに残った茶色い色素を黒に変えてくれる。
ユーモ繁殖の際には片方にスプリット鳥を使ったほうが上手くいく。スプリットを作るときでもユーモの相手はブラックチークを使うといい。

ブラックブレストは、オスのユーモの喉から胸までのエリアを黒くして体の下側すべてを真っ黒に統一できるかもしれず面白いのであるが、BBには黒い涙マークを消す働きと尾バーの白を広げて全部を白にする働き、さらにフランクの白スポットを拡張する働きもあるのでこのへんの影響がユーモとの結合でどう出るのか。
涙マークに関してユーモの黒いロアはそのエリアまでカバーしているので問題ないかもしれない。
しかし尾バーに関して、ユーモは尾バーの白を消し切れずスポット状に残している。それをもしBBが広げるようなことでは困る。フランクもどう出るか。衝突する部分が多いので考えさせられる。

ブラックフェイスとの結合は、外観に何の影響も与えない。結合しているかどうかがオスメスともに外観から確認できない。
しかしBFはフランクのスポットがなくなる傾向もあるし、同じ黒系ということで悪くない。
ユーモのスプリットを作るのにBCが良いと書いたが、とくにBCユーモを作出する気でなくユーモ本来の外観をより良く保持したいと思うならノーマル以外ならBFは良いかもしれない。

結合品種の解説(クリックで拡大)
ユーモ・パイド (EM P)

イメージ画像の鳥はパイドが実にいい感じの分量である。
ユーモにはこれくらいの色抜け量で止めておくのがいいと思う。

せっかく全身が黒い特異な外観が魅力の希少なユーモを白い色抜けだらけにしてしまっては元が何なのかわからなくなる。
ダークスーツにちょっと小物使いで白を効かした程度が格好いい。
ホワイト・ユーモ (W EM)

いくら全身が黒いユーモといえども、ホワイトと結合したならこのように「見た目はただの白キンカ」である。
他のどの色変異でも同じように結合型はホワイトの外観になってしまうので、何という変異とホワイトの結合なのか判別がつかない。
しかしユーモには羽色だけでなく羽質にも特徴があるためここで判る。

このスカスカな風切羽はまさしくユーモ。
変異結合種「ホワイト・ユーモ」が証明できるわけである。
しかしながらそれは結果的に「飛べない白キンカ」なので、この結合はわざわざ意図してやるべきではない。
このイメージ画像のホワイトユーモは黒いユーモ同士のペアから偶然生まれ繁殖者も驚いた、というものである。
ホワイト遺伝子はスプリットの状態で持っていても外観にサインを出さないので、こういうサプライズをもたらすことがある。
フォーン・ユーモ (F EM)

全身のフォーンカラーはわずかに暗めのトーンになるかもしれない。
イメージ画像の鳥はメスなのでロアと下尾筒が焦げ茶色になっている。
本当は涙マークのエリアまで含めた範囲が焦げ茶になるはずで、尾バーもなくなり尾は全部焦げ茶になるはずなのだが、この個体はユーモ遺伝子の働きがやや甘いようである。
しかし、ユーモ遺伝子を2個揃えている証拠に風切羽には特徴が出ている。

フォーン・ユーモのオスは、ベースカラーが薄くなったことにより焦げ茶の喉ストライプがよく見えるようになる。
そして胸バーの位置から下尾筒までのエリアには焦げ茶が広がる。
ブラックチーク・ユーモ (BC EM)

いちばん下の画像のメスはBCスプリットかもしれないが、オスはどれも完全なBCユーモである。
ユーモはもともと全身が黒い品種であるが、黒いといってもチークエリアはオスメスともに木炭で拭いたようなすすけた黒である。それがBCと結合したことによってロアから続くチークパッチエリアが濃い黒に変わり、褐色色素が残りがちだったフランクも黒々となる。
LB・ユーモ
イメージ準備中
ライトバック・ユーモ (LB EM)

【 ユーモ備考 】
2000年の初め頃に米国でも発見されたが、そのずっと以前からヨーロッパでは知られていた。
ユーモはヨーロッパ発祥の変異種だが、オーストラリアにはユーモと非常によく似たチャコールという変異種がいる。
オスメスともにロアが黒く、オスにチークパッチがなく、他にも色的な外観はそっくりである。
しかしチャコールには羽毛異常はなく、羽毛はすべて完全にノーマルである。

おそらくユーモとチャコールは表現が似ているだけで、別の変異遺伝子であると思う。
しかしチャコールはオーストラリアから決して出ることはない。
なので2種の違い、あるいは関係性を検証することはできない。

日本で今、ロアが黒くて腹や下尾筒が黒い、しかしブラックフェイスではないような鳥が「チャコール」と呼ばれているのを見聞きすることがある。
ユーモに似ているが翼は正常だ、というような鳥もチャコールと呼ばれていたりする。
私はそういう何だかわからない鳥をチャコールと呼ぶことを良いと思わない。
オーストラリアに本物のチャコールが存在し他の国に流出することがない以上、正体不明の鳥を同じ名で呼ぶことを良いと思わない。
色素異常か新変異か、はたまた未知の結合型か、正体がわかるまでは「正体不明」のままでいい。

日本にいるユーモはおそらく、ユーモとして輸入したのではなく、他の輸入鳥がスプリットを持ち込んだのではないかと思う。
あるとき偶然にスプリットを持つ鳥どうしがペアリングされ、最初のユーモが生まれたと思う。
現在、まだ相対的に個体数は少ないものの、熱心な飼鳥家の方々の手で大切に繁殖され着実に殖えてきている。