未知のキンカチョウたち
 ( その1 )
オーストラリアに鳥類の輸出入禁止令が施行されて以降に出現し固定された品種については国外に出ることがないため私たちには入手が叶わず海外サイトの写真を見るしかありませんし、それらの品種についての情報も多くはないのですが簡単なイラストを添えて簡単に解説したいと思います。

  

〈 チャコール 〉 Charcoal Zebra Finch
略表記はCH、常染色体上の劣性遺伝形質である。

オス・メスともにロアが黒い。
オスのチークパッチがなくなり体色に置き換わっている。オスはアゴから胸〜腹〜下尾筒に至るまで体の下側が全て黒く、ダークになったフランクにはスポットがない。
メスは全身がダークグレイで、総排泄口あたりと下尾筒が黒い。
オス・メスともに尾は真っ黒で尾バーはない。
これらの特徴はすべてヨーロッパの変異「ユーモ」と似かよっている。しかし繁殖結果を検証することもできなければ実物を並べて見比べる事さえできないので同一性を確認できない。
しかし、ユーモは糸毛質で翼がスカスカのため飛べないが、チャコールの羽毛は完全にノーマルである。
外観が似ているだけで全く別の変異遺伝子であるかもしれない。

  
〈 マークホワイト 〉 Marked White Zebra Finch
略表記はMW、性染色体上の劣性遺伝形質である。

基本的に私たちがよく知っているCFW(かつてはマークホワイトと呼ばれた)と同じなのであるが、オーストラリア国内から出ることなくまた他の国のCFWとも交わっていないので独自に進化している。
欧米や日本のCFWはマーキングとくにオレンジマークが淡色化しており、どうやってもノーマルと同じ濃さには出来ないのだが、オーストラリアのマークホワイトはオレンジマーキング・黒マーキングともにフルな濃さである。

  
〈 ダイリュート ブルー 〉 Dilute Blue Zebra Finch
略表記はDB、常染色体上の優性遺伝形質である。

ようするに「ドミナントシルバー」のことである。別名を「アプリコット チーク」という。
DSは体色もそうであるがチークの薄まりにもバリエーションがあり、オーストラリアにはチークパッチが真っ白なDSが存在する。それを「シルバー」と呼び、そのほかのクリーム色〜アンズ色のチークのDSを「ダイリュート ブルー」と呼んでいる。遺伝子的には同じものである。

  
〈 シルバー 〉 Silver Zebra Finch
略表記はS、常染色体上の優性遺伝形質である。

オーストラリアにはこのようなチークパッチが真っ白なドミナントシルバーが存在する。
他の国で真っ白なチークのDSを作りたいと思ったらライトバックを結合しないと無理である。
しかしその場合、確かにチークは真っ白にできるがLBの特徴で涙マーク・胸・尾が濃い黒となる。
オーストラリアの「シルバー」は別名「ホワイトチーク」とも呼ばれ、真っ白なチークパッチと明るいシルバーカラーの体色を持ち涙マークと胸バーはシルバーグレイである。

  
〈 ブラックボディー 〉 Black Bodied Zebra Finch
略表記はBBD、常染色体上の優性遺伝形質である。

このブラックボディーという品種の起源はブラックフェイス変異に関係している。
ブラックボディーは「変異種」として認められておらず、遺伝的にはブラックフェイスである。
ブラックボディーはブラックフェイス同士での多様な交配を通して作出された。なので当然、優性遺伝形質であるが、もしブラックボディー錦華鳥をノーマル錦華鳥と交配したならば、仔はブラックボディーではなくブラックフェイスが生まれる。

オスの胸バーの黒い色がアゴとさらに腹から下尾筒にまで広がる。ボディの下側が全て黒いという点がブラックフェイスとは異なる。しかしこれはブラックフェイスの特徴が過剰になったものとも言えるしむしろ「すごく良いブラックフェイス」という見方もできる。
ブラックフェイス同様に、フランクには白いスポットが全く無いことが好まれる。
メスの外観は、オスが持つ全てのマーキングが無くそこに体色が置き換わり、涙マークと尾バーを除き全身がグレーである。

ブラックボディーとシルバーの結合で「WA Fancy」という素晴らしいコントラストの品種が作られている。

  
〈 ウェスタン・オーストラリアン・ファンシー 〉 Western Australian Fancy Zebra Finch
略表記はWAF、常染色体上の優性遺伝変異2種の結合種である。

オーストラリア独自の品種「シルバー」と「ブラックボディー」の結合品種であり、遺伝子的に正式名称を言うならば「ブラックフェイス・ドミナントシルバー」ということになる。
しかし欧米や日本のBFとDSを使って単純に「BF DS」を作ってもこうはならない。
*(日本でWAFのような鳥を作出するとしたら、の方法をDSのページの【備考】に書いてみました)

頭も含めた体の上側が薄い銀灰色で、胸〜腹〜下尾筒までの体の下側が真っ黒である。
ロアと尾はブラックボディーと同じである。アゴと喉元はグレー地に黒縞があり、フランクは非常に薄いピンキッシュ・フォーンである。そして真っ白のチークパッチが際立っている。
メスは全身が薄い銀灰色で黒い涙マークと尾を持ち、尾カバーはオス同様に黒地に白のバーがある。

シルバーとブラックボディーの結合はともに優性遺伝であるため2種を交配するだけで達成できる。
この交配から生まれる子供はノーマル25%、シルバー25%、ブラックボディー(ブラックフェイス)25%、WAF25%の確率である。
つまり計算上は、生まれる子供の1/4がWAF(=BF DS)になるということである。

しかし次の世代を考えるときに、DS遺伝子もBF遺伝子も「劣性の致死遺伝子」であることを考慮しなければならない。
梵天のページの交配図を見て、これをDSあるいはBFに置き換えたときに同じように1/4の卵が孵化しないことが解るであろう。
ということは、「BF DS」=WAFのオスとメスをペアにして交配をしたならば、BFが、あるいはDSが、またBFとDSの両方がダブルファクターになっても致死となるということである。
その確率は、BFダブルで致死18.75%、DSダブルで致死18.75%、BFとDS両方ダブルで致死6.25%である。
合計するとじつに全体のうち43.75%の卵が致死遺伝子により孵らないということになる。

孵るであろう卵は全体の56.25%ということになるが、その卵から生まれるヒナの内訳は、
ノーマル6.25%、BF12.5%、DS12.5%、BF DS25% /計56.25% である。
孵る卵からは半数近いヒナがBF DSになるという計算だが、これほど中止卵が多くては孵るはずの卵も計算通りに孵るとも思えないので、やはりBF DSを作るなら現物同士を交配せずBF×DSの交配で作出すべきであろう。

いちおうここに、N=野生型(対立遺伝子)、B=BF遺伝子、S=DS遺伝子 として
「BF DS」同士を交配した場合の簡単な交配チャートを書いてみた。
「BF DS」が自身の持つ遺伝子を仔に伝える時、遺伝子の渡し方としてNN、NB、NS、BS、の4通りの渡し方をする。
それを縦軸と横軸に配してマトリクスを書くと縦横が交差した部分が生まれるヒナの品種になる。
↓親→  NN  NB  NS  BS 生まれてくるであろうヒナ

NNNN(きいろ)=ノーマル=6.25%
NNNB(ピンク)= BF = 12.5%
NNNS(ブルー)= DS = 12.5%
NNBS(みどり)=  BF DS =25%

              計 56.25%
 NN  NNNN NNNB NNNS NNBS
 NB  NNNB NNBB NNBS NSBB
 NS NNNS NNBS NNSS NBSS
 BS NNBS NSBB NBSS BBSS
濃い灰色で示したマス目が「致死遺伝子のダブルファクター」になってしまい孵らないヒナである。
16マス目全体で100%として 7/16 =43.75% が孵らない卵ということがわかるであろう。

  
〈 ダーク クリーム 〉 Dark Cream Zebra Finch
略表記はDC、常染色体上の優性遺伝性染色体上の劣性遺伝の結合品種である。

「ダイリュートブルー」と「フォーン」の結合品種である。
略表記がDCであり、ドミナントクリーム(DS+F)と同じなのだが、ダーククリームという品種はオーストラリアにしかいないし、ダイリュートブルー=ドミナントシルバーであるので結局どちらのDCも遺伝子的には同じものである。
ドミナントクリームのダークバージョンと同一という理解でOKである。
ただしやはりオーストラリア独自に発展しているため他の国のDCとは印象が違うかもしれない。

  
〈 クリーム 〉 Cream Zebra Finch
略表記はC、常染色体上の優性遺伝性染色体上の劣性遺伝の結合品種である。

オーストラリアにはチークパッチが真っ白なドミナントシルバーが存在し、それを「シルバー」と呼ぶことは上記した通り。その「シルバー」と「フォーン」との結合品種が「クリーム」である。
もちろんこれも遺伝子的にはDSとフォーンの結合品種であり、ドミナントクリームのライトバージョンということである。
ただし他の国の「DS F」ではいくらライトなタイプでもオーストラリアの「クリーム」のようにはチークパッチが真っ白にならない。

 未知のキンカチョウたち・オーストラリアン(その2)へ。      All Illustrations by K.Yamamoto.