2016年10月19日
[物理学]

示量変数と示強変数

\[z_{\rm int} = \frac{ x_{\rm ext}}{ y_{\rm ext}} \]

物理学に限らず,我々はいろいろなものを測りながら生活している.待ち合わせの時刻まであと10分あるからトイレに寄っていけるな.今日の気温は25℃まで上がるから,薄着で出かけても大丈夫だな,等々.「測る」ことは,未来の出来事を予測し,行動の指針を持つためにも重要な行為である.
この「測る」という動作の対象を「変数」と呼ぶことにすると,「変数」はその性質から大きく「示量変数」と「示強変数」に分けることができる.
「示量変数」は「量を示す」変数である.具体的には,「質量」,「長さ」,「時間」等である.同じ種類の示量変数は足し合わせることができる.例えば,100m走ってからもう一度100mを走ると,合わせて200m走ったことになるという具合である.このような示量変数の性質を「加算性が成り立つ」という.
「示強変数」は「強さを示す」変数である.具体的には,「温度」,「圧力」,「濃度」等である.示強変数には加算性が成り立たない.例えば,60℃のお湯が入った湯呑を2つ持ってきても,120℃にはならない.
示量変数と示強変数の間にはタイトル下の関係式が成り立つ.ここでxyzはそれぞれ何らかの「変数」であり,添え字のintは示強(intensive)を,extは示量(extensive)を表している.この式は,示強変数が異なる2種類の示量変数の比で表せることを意味している.例えば,密度ρは質量mと体積Vから次のように表される.
\[\rho = \frac{m}{V} \]
桶に入った水の質量と体積は示量変数であり,桶から水をすくえばその分だけ桶の中の水は減る.しかし,密度は示強変数であり,桶から水をすくっても桶の中の水の密度は変わらない.この「一部分を切り取ることができない」という性質が,「加算性が成り立たない」ということに等しい.もう少し身近な例で考えると,こんなものもある.
\[\rm (時給) = \frac{(賃金)}{(時間)} \]
働けば働くほどお金はもらえるかもしれないが,労働者にとって関心があるのは,単位時間あたりにどれだけお金がもらえるのかを示す「時給」であり,「時給」は効率的にお金を稼ぐという観点からすると,その仕事の強さを表す「変数」といえる.このように,2種類の「量」を表す「変数」を使って「強さ」を表すことができる.
「量」と「強さ」の概念は,我々の身の回りにあって,これを区別できる能力は大切だと思う.1年で壊れるものを5年間で5個使うか,5年で壊れるものを5年間で1個使うか.どちらも5年間を過ごしているが,質が高い,強いのは後者である.




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