風に吹かれ、雨に打たれ、流離(さすらい)の果てに、辿り着いたのは日暮れ間近い浜辺だった。
秋風の頃になると、手をつなぎ、波打ち際を母と二人で歩いた幼き日々を思い出す。
「母ちゃんは、死んだ父ちゃんのぶんまで頑張らんといかんな」。
そう言って、いつも笑っていたのは遠い昔。
その母は、もう逝ない。
ぎゅっと握った指先に伝わる温もりは、いつまでも忘れられない身体(からだ)の芯に染みついた母の優しさ。まるで昨日(きのう)ようだ。
我がままが通らないと口答えし、ぐれて故郷(いえ)を十八で飛び出してからは、やる事、なす事、失敗ばかり。半ばやけくそになって、チンピラ仲間に引きずられ、挙句の果ては世間に顔向け出来ない事の繰り返し。
今日(いま)も一つ屋根の下で一緒に暮して居れば、最期を看取る事も出来たものを。
なのに俺は相変わらず見栄っ張りで、強情っ張りの親不孝者。
茜色に染まり、沈みかけた夕陽を眺める。
頭上に海鳥が舞う。高く、低く。水彩画を描くように。
歩んできた過去を振り返れば、涙に包まれた闇の世界。
水平線の彼方には、闇の極楽浄土があるというのか。
苦しみと悲しみに潰されそうな向こうには、幸(さち)があるというのか。
やり切れない。切ない。