『女、一人旅』

 他人には言えぬ暗い過去を背負い、真っ赤な夕陽が沈むころ、旅立ちます。この街とも、今日でお別れ。
 夜更けの停車場に降り立ち、哀愁漂うプラットホームに独りぼっち。寂しいな。
 夜が明けても、行くあてもなく、小雨混じりの雪が舞う。
 手鏡に映る化粧はあせ落ち、窶(やつ)れた私(じぶん)が不憫(ふびん)です。悲しい。
 凍えて足取り重く、古めかしい家並みが軒を連ねるカモメ舞う最果ての港町。
 愛想つかされてからは酒に溺れ、母さんの背中で聴いた子守歌が心に響く。
 出直すから、かりそめの恋でもいい、もう一度、愛が欲しい。心で叫んでみても、空しいばかり。
 寄りかかる男(ひと)もなく流れ、流れて女、一人旅。

   『地球は一つ』

 三重県人であるよりも、
 日本人。
 日本人であるよりも、
 アジア人。
 アジア人であるよりも、
 地球人でありたい。
 希望に満ちた国境なき近未来の地球を夢みて。

   『世間に背を向けて』

  さっきから降り始めた雨は一層、勢いを増し、一向に止みそうもない。差す傘がない。
 足早に家路を急ぐ人達とすれ違いながら、僕は街を出てゆく。
 間に合うだろうか。午後十一時二十八分発の最終電車に。
 もうすぐ出発してしまう。駅に向かって歩くテンポが自然と早くなった。
 集合団地の窓に灯る幾つもの明かりがふと、目にとまる。家族の団らんが伝わってきそう。
 母に甘え、はしゃいだガキの頃が脳裏をよぎる。
 振り返っても、見送くる人の姿も見えない。
 車のヘッドライトの光に時々、街路樹が影絵のようにぼんやり浮かんでは消えてしまう。
 故郷(ふるさと)を捨て、やっと辿り着いた大都会は華やかさとは裏腹に、人の冷たさが吹き荒ぶ。
 
群れからはぐれても戻る故郷(ふるさと)はなく、大空を迷(さまよ)う一羽の渡り鳥。
 心の傷が癒えるなら、この命、君に捧げよう。