山室さんの長〜い1日(年に一度の大掃除)

  ある日突然我々一同は大広間に呼ばれたので御座います。ア、皆様申し遅れましたが私、北畠具顕御所の執事、山室将兼に御座います。そして御所様曰く、

「これから、大掃除をするように。」

「ハ?」

「お前さんたちは頭がよっぽど悪いようだね。余は大掃除と申した。お・お・そ・う・じ。」

「言い方かえなくても解ります。何で今ごろ?」

「知れた事。1周年だから。」

「1周年?それはこの間・・・」

「だまらっしゃい!そこはそれ!」

御所様は相変わらず人がお悪い。我々が交代で年休を取ろうとしている事を知っておるのだ。何で又このだだっ広い御所をこの梅雨の暑いさなかに掃除なんて埃まみれにならなきゃいけないんだ。

「エー、御所様。我々はこれから交代で年休を取ろうと思って・・・」

「そんなもの取れると思うのが大間違いさー。」

「そ、そんな!!確かに就職協定には権利が保障されておりますぞ!!!」

「私、そんな法度出した覚えないもーん。」

人を食ったような馬鹿面に我々は激怒したのです。

「雇用主の横暴だ!!」

「労働基準法違反!!」

「ストだ、スト!!!」

「我々の既得権を奪うな!!!」

「お前さんたちは、一昔前の組合みたいな事を言うね。大体、君たちストなんかしても無駄。だって組合なんか認めてないもの。」

ああ、これだから個人事業主は困るのだ。社長の横暴で社員の生活は無茶苦茶だ。

一度言い出したら、1000万円を目の前に積まれてもハイとは・・・いや、言うけども聞かない殿の事。我々は仕方なく年休の大半を余らせたまま、大掃除に取り掛かったのです。

 幸い、私は家臣たちの差配をするのが努め。皆に担当を割り振り、私は自分の担当の謁見の間に急いだので御座いますが・・・。

「あ〜あ、誰だ、この前の謁見の時にスナック菓子なんぞ持ち込んだのは?絨毯に絡まって取れないじゃないか!」

勿論持ち込んだのは御所様に決まっておるのですが、我々はそんな事を知るよしもなく懸命にスナック菓子を絨毯の毛の間から取り除いていたので御座います。

  そのころ、国司家御廟の前では・・・。

家臣A「御所様も自分のご先祖でもない人に、よくもまぁ線香なんかあげるもんだ。」

家臣B「全くだ。大体なんで名前が我々には無いんだ!!!」

家臣A「名前も無いのにやる気もでんなあ。」

家臣C「何で名前がないんだろう?」

家臣A「決まってる。面倒くさいからだ」

「・・・・・、貴様ら。」

「ご、御所様!」

「何を呑気にくっちゃべって、さぼっとるか!!!」

「御所様、名前が無いと非常に我々の判別ができないのですが。」

「黙れ、ABC」

「消火器みたい・・・」

こうして逆鱗に触れた名前も無い三人は、こってり油を絞られて、具教卿の画像の架け替えを三度もやらされる羽目になったのであります。他の者達にとって御所様の気まぐれないたずらに付き合わないですんだ事が不幸中の幸いでしょう。嗚呼、家臣ABCよ、尊い犠牲は忘れない。

  不幸な三人をほっておいて私は、御所の門に参りました。来客を待っている「かうんたー」に門前の掃除をさせるためです。言って見るとどうでしょう。「かうんたー」は菓子をむさぼりながら呑気に寝転がって『究極超人あ〜る』の愛蔵版4巻を読んでいるではありませんか。

「これ!何をしておるか」

「ア、山室様。」

「それは私のものではないのか?」

「違いますよ。私のです。ほら、べんじゃみんが出てくる所で折れ目がついてるでしょ?」

「ア、  ホントだ。3巻あるか?」

「読みます?」

「読む読む。ところでそなた、どちらが「あさの」でどちらが「きしだ」かわかるか?」

「眼鏡のほうが「あさの」です。」

それにしても一部の人しかわからない会話だ。こんなシュールな会話を四半時もしてしまった私で御座います。

  それはともかく、「かうんたー」に掃除をさせると、私は謁見の間に戻ったのでありますが・・・・・。

「御所様!!何をなされております!」

「お前は筆頭おバカだねぇ。謁見の間で風呂はいるわけないでしょ?」

そんな事を言ってるのではない。解ってて、何故この男は聞くのだ。

「そこはつい先ほどですなぁ、私がてまひまをかけて、一生懸命、絨毯にこびりついたスナック菓子の糟をですな、取り終わったところなんですよ。」

「知ってるよ。知ってるからここにいるんでしょ?」

「なんで!!!」

「私に埃だらけの汚いところにいろと、貴方はこのように私に申されるわけですね?」

「何を回りくどい言い方を・・・。そんな事言ってないじゃないですか。ご自分の御座所のおられればよろしいのではないかと私は愚見を申しておるので御座います。」

「私は自分の部屋がせっかく奥が綺麗にしてくれたのに、そこを汚すのが嫌なだけでございます。大体、私の館でなぜ居場所をあれこれ言われなきゃいけないんでございましょう?」

「御所様・・・・・、回りくどいので普通に話しませんか?」

「そうだな、面倒くさい。」

「汚さないで下さいよ、全く。」

こうして、御所様の数々の嫌がらせを乗り越えて我々家臣一同見事に御所の大掃除を終ったので御座います。

「もう、日が暮れる・・・。」

追記:家臣たちの中で名前を求める運動が起こりましたが御所様は「これ以上固有名詞を増やしたらいつ誰になっていいのかわからん!」という理由で却下しております。何のことでしょう?(笑)