それは、月の綺麗な晩の出来事。

「―――なぁ、お前達」

 月が綺麗だと言い出したのは、確かアッシュだっただろうか。

「私は、最近思うのだ」

 そしてユーリも月を見上げて綺麗だと言った。

「もしかしたら、これは可笑しな事なのかもしれないが」

 最後にスマイルがベランダに出て月の光を浴びると、突然月

見をしようと言い出した。

 このメンバーらしく、ワイン片手の、ちょっと変わった月見。

 皆、最初は黙って輝く月を見つめていたが、ふとユーリが一

段と紅色になった唇を動かした。

「突然、死にたいと思う事があるんだ」

 沈黙が、生まれた。

 細い指がワイングラスをゆっくりと回転させ、中の液体に波

うたせる。

「―――理由は、分からない」

 自ら沈黙を壊し、ワインに映る自分の顔を見つめる。何年、

何十年、何百年経とうとも変わる事のない顔。

「ただ、突拍子もなく死にたい気分になる。方法は別に問わな

 い。その思った時に出来る事なら、何でもいいんだ。車に乗っ

 ている時ならそのまま何処かにぶつかればいい。路上なら車

 道に飛び出せば一発だ。そして、今なら」

 指の動きを止め、ベランダの下へ視線を動かす。

「ここから飛び降りれば、簡単に死ねるだろうな」

「ユーリっ!!」

 死ぬなっ!!

 そう聞こえそうな声がユーリの肩を掴んだ。

 銀髪の吸血鬼は、ただ小さく笑った。

「大丈夫だ。今は別に死にたいと思っていない」

「そんな話の最中に言われたら信じられないっス」

「ふっ。すまなかったな」

 そう言って一口ワインを喉に流す。

「―――ねぇ、ユーリ?」

 黙っていた声が口を挟む。

 スマイルはベランダに設置された椅子を前後逆にして腰かけ

ていた。背もたれに腕を回し、ユーリと同じように指先でグラス

をもてあそんでいる。

「じゃあさ、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「どうして、死のうとしないの?」

 アッシュが息を呑むのが二人には分かった。

「スマイルっ!」

「アッシュは黙ってて」

 低く、小さな声がアッシュに突き刺さる。いつものおちゃらけた

声ではない。真面目な、そして彼がスマイルだという事を忘れ

させるような、別人の声。

 紅色の視線が重なり合う。

「ねぇ、ユーリ?」

 声が戻った。陽気な声が、もう一度、同じ言葉で問う。

「どうして死なないの?死にたいと思った時に死んだらいいじゃ

 ん。僕やユーリは、アッシュと違って寿命があるわけじゃない。

 そのうち死ぬのを待てばいいやなんて気長な事は言ってられ

 ないんだよ?なら、死にたいと思った時に死んだら楽じゃない

 の?僕等は、自殺するか、殺されるしか、死ぬ方法はないん

 だからさ」

 月の下で交わされる、紅色に染められた会話。今度ばかりは

アッシュも黙り込んだまま口を挟まない。ただ、口は何か言いた

げに時々もぞっと動く。

 ワインがぴちゃりと音をたてて波をたてる。

「―――それも、思った」

 それが、ユーリの答えだった。

「どうして自分は死にたいと思っているくせに、死のうとしないの

 だと」

「その答えは?」

「答え、か」

 クスリと笑って月を見上げる。

「この世の中には質問と答えが常に一つになっている。質問が

 ある限り、人は答えを探し出さなければならない」

 喉が渇きを訴えてくる。それを抑えるようにワインを口に含む。

 今日のワインは赤ワイン。

 血を思い出させる、紅ワイン。

「昔の私ならさっさと死んでいただろう」

「どうして?」

「困る奴がいなかったからだ」

 ワインをベランダの手すりに乗せる。硝子と石が触れ合って、

コツッと音をたてた。

「困る奴がいなければ迷惑をかけない。だからさっさと死んでい

 ただろう。しかし、その頃の私はあいにく死にたいと思っていな

 かった」

 そう言って笑ってみせる。

 その笑みは、アッシュの胸を締め付けた。なんて恐ろしい事を

笑顔で言えるんだ、この人は。まるで、その時死ななかった事を

後悔しているような笑みが、恐く感じられてくる。

「だがな」

 全てを否定して二人へ向かい合う。背負った月光が光を増し

たような気がした。

「私は今、生きていてよかったと思う。そして、これからも生きて

 いきたいと思う。いや、生きていかなければならない」

「―――どうして?」

 同じ問いで聞き返す。

 やはり、ユーリは笑うだけだ。

「私を必要とする奴がいるからだ」

 ワイングラスを持ち上げて二人に向けて掲げる。

「アッシュに、スマイル」

 目を閉じ、見えない誰かを見つめる。

「そして、無数のファン達だ」

 瞳を開けた先には大切な仲間がいた。自分を必要としてくれる

今生きていく為の理由。

「お前達のおかげで私は今、生きている。感謝を言う」

「―――ユーリ」

「ヒヒッ。ユーリらしいねぇ」

 空になったグラスに新しくワインを注ぐ。

「それじゃ、これからも僕達はユーリを必要とするよ」

 高く掲げたワイン。

「そして、ユーリを生かしてあげる」

「おっ、俺もっス」

 三つのグラスが三角を描く。

「俺達が、ユーリの生きる理由になるっス。だからっ―――」

 死にたいなんて言わないで欲しいっス。

 ユーリの口元が緩んだ。

「本当に、面白い奴等だな。お前達は」

 掲げられたワインが触れた。心地よい硝子の音が闇の静けさ

に飲み込まれて消える。

「私は、お前達がいる限り、死にはしない」

 それは、何よりも強い絆。

 

うっわーい♪

書いたよ、書いたよ。

思いつきで久々に書いたよ♪

てか、このユーリ。

実は半分以上、俺です(汗)。

いや、本当に最近あるもんで。

車乗り出してから危ないんよなぁ(汗)。

いやぁ、このまんま田んぼにつっこんだら面白いやろうなぁ、とか。

急に急ブレーキかけたらおもろいやろうなぁ、とか。

電柱ぶつかったら凄いやろうなぁ、とか。

―――危ないです。

大丈夫。

今の僕には必要としてくれる人がいるから。

ちなみに、ユーリの「ファンがいる」ってのは某Deuilサイト様にあったので、ちとイメージとして入れてみました。

うん、そこの小説かっけぇんよ。

―――ユーリ殺されてけっけどね。

せやから回想シーンでの台詞で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、今は死なないでおくよ。

今死ぬと悲しむ人がいるから。

死んだら怒られるだろうし。

だから、死なない。

人に迷惑かけたら駄目だって教えられてきたからね。

その人がいる限り、僕は死なない。

そして、その人の横にいる事にするよ。

じゃないと、その人。

逆に死にそうなんだもん。

その人も同じ。

僕がいるから、死んでないんだ。

お互いにお互いの命をこの世につなぎとめてる。

これって、それはそれで面白い関係だよね?

 

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