都内某所。

 MZDが園長を務める「POP’N幼稚園」は今日も騒がしい。

 

 幼稚園とは子どもを預かる場所でもあるが、公園とはまた違った出会いを求める場所でもある。そこで子ども達は

友達と仲良くする事を学び、文字を書く事を学び、遊ぶ事を学ぶ。そんな子ども達の感性を延ばす為に、大抵の幼

稚園には飼育小屋などがあったりする。

「て、事であんた達」

 Ms.Bほどではないが、ピンクのエプロンがあまり似合わない紫色の着物を身に纏った彼女、梅組担任紫は何故

か手にバケツにモップという掃除道具を持っていた。その姿がこれまたアンバランスで、正直者の園児は素直に思っ

た事を口にした。

「むらさきせんせい、へんなのぉ」

「こっ、こらっ。さいばーっ」

 兄が止めるのも虚しく、紫の鋭い視線がサイバーへと向けられる。

「サイバー。今の言葉、もう一度―――言えるかい?」

「うんっ」

「さいばーっ!」

「あんたって子は……正直にもほどがっ」

「は〜い。紫、園児の言葉如きでピリピリしてたら。シワ、増えるわよ?」

「兄さ―――」

「こら、紫」

 紫の言葉を遮り、彼女の唇に人差し指を押し当てる。

「私の事は、ハニー『お姉さん』って呼んでって、いつも言ってるでしょ?」

「はにいせんせい。おとこのくせにそれは」

「あんたは黙ってなさいっ!」

 ハニーの手加減抜きの裏拳が悪気がなかっただろう、プリンスMの顔にクリーンヒットする。

 彼がかぶっていた小さな王冠が足元でくるりと一回転して動きを止めると、まだ何か言いたげな顔をしていたサイバー

がマコトの腕にしがみ付いた。その後ろで女の子達も身体を小刻みに震わせている。

「―――姉さん。言ってる事とやってる事が違うようにみえるんだけど」

「うふっ。気のせいよ、紫。あ〜ら大変。M君、どうしたの?突然倒れちゃって」

『あんたがやったんだろ』

 皆が喉まで出かかった言葉を言わずに飲み込む。

「という事で、私はこの子を保健室に連れて行くわ。あとの事は任せたわね」

「え?あ、ちょっ、ちょっと!」

 呼び止める声も虚しく、Mを抱き上げると――― 一応お姫様抱っこで―――ハニーは一目散に保健室を目指して駆

け出した。

 残ったのは、言葉を失った紫と園児達。

「さ、さて。気を取り直して―――あんた達。今日は飼育小屋の掃除をしてもらうよ」

『えーっ』

「えー、じゃない。これは交代で回ってくるものなんだから、素直に諦めなさい」

「でもせんせい?」

 まださっきのハニーの恐ろしい出来事を引きずっているのか、サナエにスモックの裾をぎゅっと握り締められたリエが

可愛く首を傾げる。

「びいせんせいのくらすは、そうじしてないよ?」

「―――あのクラスにさせると飼育小屋が綺麗になるどころか紅色に染まって動物達が一匹残らずいなくなるかもしれ

 ないから除外されたのよ―――」

「え?」

「ううん。なんでもないよ。ほら、みんな道具持って、さっさと掃除が済んだらおやつが待ってるよ」

 

 自分の背丈ほどのモップを握り締め、小さな池の周りを二人の少女が掃除をしていた。

「ううっ」

「ぽえっとちゃん、だいじょうぶ」

「う、うん。だいじょうぶ。みずなんて、おちなきゃこわくないんだから」

 などと言いながら、モップは細かな振動で揺れている。こんな事ならモエには悪いが、池周りの掃除を断るべきだった

と今になって後悔する。

「はやくそうじして、おやつたべようね」

「うん……がんばろ」

 幼稚園の敷地内にある飼育小屋。傍にはうんていやジャングルジム、砂場などの遊び道具が無数ある為、最初は外

に出ていた池も今では安全確保の為に柵の中でひっそりとしている。

 掃除をしていると聞こえてくるのは、友達の楽しそうな話し声。それが羨ましくて羨ましくて、ついモップの先を床に叩き

つけてしまう。

「ぽえっと?」

 そんな時だっただろうか。柵の向こうで自分の名前を呼ぶ声がして、顔を上げると今日は一度も会っていなかった彼

が青い友達に手を引っ張られているところだった。

「ゆうり!」

 その気の緩みがいけなかった。柵越しに彼の元に駆け寄ろうとした足はもつれ、翼を広げる暇もなく小さな身体は水

柱に飲み込まれた。

「ぽえっとっ!」

「ぽえっとちゃん!」

 虚しく残されたモップが音をたてて倒れる。

 目の前で全てを見つめていたモエはすぐに駆け寄ったが、もうポエットは深い水の中だった。

「どうしたんだい?」

 水しぶきの音と皆の悲鳴を聞いて、ホウキを持ったまま紫が駆けつけた。その後ろには野次馬だろう、園児達の姿

も見える。

「ぽっ、ぽえっ、ぽえっとちゃんがっ」

「ぽえっとがいけにおちたっ」

「何だって!?」

 動揺して舌が回らないモエに代わって事を説明したユーリの言葉に紫の表情が変わった。

「あんた達っ、そこを退きなっ」

「え?せんせい、どうするの?」

「どうするも何も、助けに行かなきゃポエットが死んじまうだろっ!ただでさえこの池はあいつがいて深いってのにっ」

「紫っ」

 自分を制する声に振り返る。

「にっ―――姉さん」

「退きなさい」

「退きって……もしかして、自分が行くつもりかいっ?」

「でなければこんな事は言わないわよ」

 手にしていたホウキを捨て、道を塞ぐ紫の肩を叩く。

「安心しなさい。あの子は私が助けてあげるから」

「姉さんっ」

「あ、あれっ」

 タイミング良くか悪くか。それは分からないが、池を凝視していたサナエが声をあげた。つられて皆の視線も静かに波

紋を揺らしていた池に固定される。揺れが収まるかどうかの境目辺り。泡が一つぷくっと浮いてきたかと思うと、一つ、

また一つと姿を現し、次第にその量を増やしていった。気付けば泡は池一杯に広がり、それらを打ち破るかのように水

がせりあがると、大きな噴水が綺麗な輝きを放った。

「ぽえっと!」

「ポエット!」

 池の主は背中にポエットを背負い、ゆっくりと紫達がいる岸に身体を寄せた。

「ポエットっ、ポエットっ!大丈夫かっ?」

「う……んっ」

 小さな身体を抱きかかえ、軽く頬を叩くと少女は眉をひそめて呻き声をあげた。皆の顔に安心の笑みが戻る。

「私はポエットを保健室に連れていくから。あんた達は他の場所を掃除してな。いい?池に近づくんじゃないよ」

『―――はぁい』

 ポエットに後ろ髪引かれながら、てけてけとヤギ、ニワトリ、そしてパンダ小屋の方へ向かう。いつの間にかユーリも

柵の外から消えていた。

「助かったのは良かったけど―――」

 池に残されたハニーは安堵の息を漏らしながら、池の主に視線を落として肩を竦めた。

「出てくるタイミング良すぎよ。そのおかげで私の見せ場はパー―――ねぇ。もしかして、貴方狙ってたの?グラッパ」

「〜♪」

 ハニーの問いかけに、鯨は歌って答えるだけだった。


ノリで書いてるPOP’N幼稚園第3弾。

わりと本人楽しんでおりまする。

つか、いくつか空想で書いとるから本当かどうかは知らんけど(汗)。

はい、うちの幼稚園に保健室なんざなかったし(怪我した記憶がにゃいともゆー)、飼育小屋の掃除は先生の仕事っし

た(園児はただ遊ぶだけ)。

あぁ―――ま、えぇのよ。

うん、POP’N幼稚園やし。

MZDが園長やし。

つか神?

これでよ〜し(笑)。

あー、ちなみにPOP’N幼稚園が飼っている動物とは、グラッパにグリーンにピータンにハマノフにアンズな感じになっ

ております(笑)。

いや、アンズは最初園児やったんやけど、なんか動かしずらいとゆー事で(汗)。

03.1.24

 

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