都内某所。

 MZDが園長を務める「POP’N幼稚園」は今日も騒がしい。

 

 クラス数は片手ほどの小さな幼稚園。1クラスの生徒数も少ないが、先生は各クラスに2人ついている。そうでも

しないと最近の世の中、親も安心して子どもを預けないらしい。

 そんなとある教室―――ユリ組。

「あそんでー」

「でー」

 騒がしくハモるガキの声。

 支給のエプロンの裾を引っ張られ、本名不明、自称KKは少なからず顔を顰めた。

「お前らなぁ」

「けーけー」

「けーけー」

「少しはだなぁ」

「ひまー」

「まー」

「大人しく、だなぁ……」

「あいてしろー」

「しろー」

「だーっ!こらっ、ピエジルっ」

 鳴き止まない子どもを怒鳴り散らすのは大人気ないと一般常識なら思うだろうが、あいにくKKにそんな常識など

持ち合わせていない。本名はピエールとジルというのに、面倒なのか略して叫ぶ。

「いい加減に2人で遊んでろっ!」

「いやだー」

「だー」

 今日はキュウリとナス―――ちなみに昨日は天麩羅―――の着ぐるみを着た2人が口を尖らせる。

「つまんないー」

「いー」

「何がつまんねーだよっ」

「だってー」

「てー」

『キャハハハハハハハハ』

「うわっ!」

 突然、何か騒がしく笑い声を発するものがKKと園児の間を裂いた。微かな風が髪を揺らす。

「こら、お前らっ!」

「え?」

「なに?」

 主語がないというのに呼び止められたのを自分達と認めて振り返る。

「―――何してんだ?」

 出来るだけ優しく言っているつもりだが、そのこめかみには青すじがはっきりと浮かび上がっている。

 少年達は顔を見合わせて、にぱっと笑った。

『じてんしゃではしってた♪』

「部屋の中で乗るんじゃねーっ」

「うわーっ」

「ばいしこ〜♪」

「こら、待てっ!」

 室内を走り回る自転車を無我夢中で追いかける。しかし、足元には細々したガキや玩具が転がっていて、いまい

ち思うように走れない。

「うわっ。お前等、少しは片付けろっ!」

「いやだー」

「だー」

「誰もお前等に言ってねっ!」

「きゃははは♪ばいしこ〜」

「ばいしこ〜!」

 ベレー帽の少年達は動きが速い。正しくは大人のKKと違って小回りがきくだけだが、我が庭のような教室では

園児の彼等の方が有利だ。微かな隙間をかいくぐり、ご丁寧に避けてくれる園児達に感謝しながら追いかけてく

る化物から逃げる。

 そんな彼等に、とうとうKKが―――キレた。

「このっ―――スギレオッ!」

 鳴く子も、逆に悪化して泣き出す怒鳴り声。だが、少年達はこれまた逆に楽しんでいるのか笑い声をあげた。

『ばいしこ〜♪』

「―――Bのクラスに送り込むぞ―――」

 ぼそっと呟いた言葉。だが、名前を呼ばれた2人は即座に自転車から飛び降りた。

 同時に教室内の空気まで重くなる。

「いや」

「びぃせんせいのくらすはいや」

「そうかそうか。なら、さっさと片付けてこい」

『うん』

 小さな身体を小刻みに震わせ、とぼとぼと自転車をひいて外へと出て行く。その後ろ姿がなんとも言えずに惨め

というか、可哀相な感じがして園児達は胸の中で手を合わせた。

 恐怖の代名詞と園内で言われているBことMs.Bはその名前だけで園児を黙らせる事ができるという事で、意外

と重宝されている。ちなみに、彼女のクラスは別名問題児クラスで、手につけられない園児が彼女と激しい戦闘を

繰り広げながら、毎日楽しく過ごしている。

 耳を澄ませば聞こえてくる、轟く銃声と、何かが斬れる音。

「ろくくん。またびぃせんせいとあばれてるみたいだね」

「―――うるさくてたまらん」

「そう?ぼくはたのしいけどね」

 黄色のクレヨンを握り締めて笑う。

「ねぇ。ゆうりはだれをかいてるの?」

「―――だれでもいいだろ」

「ひまだからあててみるね」

「ちょっかいをだすな」

「そうだねぇ……あ。もしかして、たすとせんせい?」

「そっ、そんなわけないだろっ!」

「ん?俺がなんだって?」

「あ。たすとせんせい!」

 現れた先生にスマイルは素直に笑みを浮かべた。しかし、ユーリは俯くどころか、短い両腕で描いている途中の

絵を隠した。

 たすと先生と呼ばれた男は赤い髪と地黒の肌が目立つ男だ。正しい名前はダストだが、スマイルはダの発音が

苦手なのか、それもワザとなのかは分からないがたすとと呼んでいる。

「ゆうりがね、たすとせんせいのえをかいてたんだよ」

「へー。俺の絵を、ねぇ」

「しらんっ。だいいちに、なぜわたしがこいつのえをかかなければならないっ」

「いつも思うけど、お前生意気だよな。ガキらしくねぇ」

「それならおまえのほうがきょうしらしくないぞっ」

「むっ―――そこまで言うならその絵を見てやるっ」

 ダストの行動は実に速かった。ユーリが制する腕を払いのけ、押しつぶされていた画用紙を奪い取る。

「かっ、かえせっ」

「誰が返せって言われて返すかよっ―――て」

 大人の視線まで上げられた画用紙にユーリの手は勿論届かない。

 まじまじとクレヨンで描かれた絵を見つめ、ダストはつい口を滑らしてしまった。

「ユーリ。お前―――絵、下手だな」

 とたん、ユーリの表情が一転した。鋭い眼を一段ときつくし、殺気を放つ。

「ばかものめがっ!!」

 攻撃は―――クリティカルだった。

 椅子から立ち上がり、上靴を履いた足で力一杯ダストの足を蹴る。それがどうとでもない場所ならよかったが、

見事にユーリの踵は弁慶の泣き所を仕留めていた。

 呻き声すら出さずにダストがその場に倒れ込む。

「こんどそんなことをいってみろ。ころすぞっ!」

 そういい捨て、部屋を出て行く。

「あ〜あ。だいじょうぶ?せんせい」

 ユーリがいなくなった頃にスマイルは椅子から下り、倒れたままのダストの傍に座り込んだ。

「それにしても、おばかだねぇ。だすとは」

 紅色の眼を細める。

 ダストは正しく発音したスマイルを見つめながら、気のせいか自分より年上のように感じた。

 

 都内某所。

 MZDが園長を務める「POP’N幼稚園」は今日も騒がしい。


園長(MZD)の出番ねぇ〜(笑)。

ま、これも元は誕生日プレゼント用にあげたやつ。

それにちーっと手を加えてみやした。

うん、ピエジルとかスギレオ辺り。

Deuilのところはそのまんま。

気が向けば、ご希望通りMs.Bのクラスも書くかと。

02.12.19

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