最近お気に入りの場所に入れた廃ビル。誰も近寄らないそこは、一人になるには丁度いい場所だ。

 都心から少し離れた昼も夜も静かな地。薬品会社だったここは、ある社員の調合ミスで大爆破。太い柱と骨組みぐら

いしか残らない爆破など想像できないが、そんな危険な薬品がどうしてこんな都心から離された会社にあったかは謎

だ。爆発が起きたのは数年前。最近ここに越してきた人以外は大抵この事件については知っていて、裏に繋がってい

るなら会社の裏事情まで知り尽くしている。

 今年来日し、最近裏家業を再開した彼女はその事を知らない。

 この場所を知ったのはとある戦いのあった日。主催者であった彼は参加者の記憶を消した気になっているが、彼女

だけには効かなかった。

 崩れかけた階段を音を消して上り、ドアのなくなった屋上に出る。

「?」

 月光が照らし出す所々穴の空いた床。周囲を囲むフェンスは一部しか原型を留めていない。

 闇の中に一つの影があった。

「久しぶりね」

 後ろ姿だけでも彼が誰だか分かった。いつもかぶっている帽子が闇夜によく目立つ。

 彼女の声でやっと彼女の存在に気付き、少年がゆっくりと振り返る。

「お前か」

 少し嘆息交じりな彼の声に苦笑する。

「何?驚かないのね」

「別に」

「つまらないわね」

 少年の傍へ近づき、隣りに腰を下ろす。

 夜風に黒髪が戯れる。

「最初からお前に効くとは思ってねぇよ」

「『あの子』にはよく効いているけどね」

 くすりと笑みを漏らす。

「―――仕事の帰りか?」

「えぇ。分かった?」

「嫌いな匂いがするからな」

 それは鉄の匂いであり、硝煙の匂いであり、人を殺した後の彼の嫌いな匂いである。

 サングラスをかけ直し、嘆息をつく。

「楽しいか?」

「何が、かしら?」

「人を殺す事だよ」

「えぇ、勿論」

 初めて二人が視線を合わせた。

「楽しいわ。これが私の生きがいだもの」

「生きがい、ねぇ」

「―――ねぇ、MZD?」

「何だ?」

「貴方の生きがいは何なの?」

「は?」

 意外な質問に目を丸くする。

 生きがい。

 今まで考えた事のない単語に、すぐ答える事ができない。

「貴方、神様だったわよね?」

「一応な」

「何?(仮)なの?」

「そんなんじゃねぇよ―――ただ」

 組んでいた足を宙へ放り出す。

「神って言う割りには俺、何もできねぇなと思ってさ」

「そうなの?」

「そうさ。俺は創った世界をただ見続けるだけの傍観者なんだよ」

「へぇ」

 星すら見えない都会の空。それと同じ色の髪を手櫛で梳き、揺れるそれに見入る。

「何も、出来ないって言ったわよね」

「あぁ」

「人を殺す事も?」

「いや」

 矛盾した答えに眉をひそめる。

「人を助ける事は?」

「できる」

「―――どういう事?」

 サングラス越しの彼の表情を読み取る事は彼女とて難しい。

 横顔を向けていたMZDがその場に倒れこむ。

「俺は、絶対的な力を持ってる」

「絶対的な、力?」

「神だから持てる力さ」

「じゃあ、どうして何もできないなんていうのかしら?」

「―――力があっても、それが使えなきゃ意味ねぇんだよ」

 舌打ちし、帽子を深くかぶり直す。

「生かすも殺すも俺次第。だから使わねぇんだ」

「―――恐いの?」

「あぁ」

「即答なのね」

「別に。恥ずかしくもなんともねぇからな」

 風の歌声が聞こえる。

 視界一杯の闇。空気が澄んでいれば綺麗な星空が見えただろうと息を吐く。

 会話が途切れてしまった。

 最初はその沈黙を楽しんでいたが、次第に空気が重くなってきた事に息苦しくなる。ふと視線を隣りに落とすと、起き

ているのか寝ているのか分からない顔が規則正しい呼吸を続けていた。無表情の顔を見た瞬間、何故か彼をからか

いたくなった。

「ねぇ。私を殺してって言ったら、殺してくれるかしら?」

 彼の頭の両隣に腕をつく。

 サングラスの向こうで目が動いた。

「人格をか?それとも肉体か?」

「ふふっ。どちらがいい?」

「―――どっちにしろ、俺は殺さねぇよ」

「あ、そ」

「いつまでそうしてるつもりなんだ?」

 傍から見れば彼女が押し倒した状態なのが気に入らないのか、少しドスのきいた声を漏らす。

 彼女はただ、微笑むだけだ。

「別にいいじゃない。それともイヤ?」

「女に押し倒されるのはな」

「―――貴方らしい」

 彼の額にキスを落とし、やっと体勢を戻す。

「ったく」

「MZD?」

「なんだ」

 空を見つめたまま問う。

「殺して欲しい時は私に言って」

「は?」

「神なら時にはこの世界に不必要な者を消さないといけない時があるでしょ?だからその時は私に言って。そうしたら、

 私が代わりに殺してあげるわ」

「ありがとよ――― 一生頼まねぇと思うけど」

「連絡、いつでも待ってるわ」

 すくっと立ち上がり、踵を返す。

「ねぇ。いつもここにいるのかしら?」

「あぁ。一人、でな」

「そういえば影の姿がないわね」

「自由行動だ」

「そう」

 何気ない会話を交わし、ドアのない入口の縁に手を添える。

 風が吹いた。

「―――生きがい」

「え?」

「俺の生きがいはな。お前らの生活を見下ろす事だろうな」

「それが、楽しいの?」

 背を向け合ったまま話し掛ける。

 空に小さな光が一つ灯ると共に微笑を漏らす。

「楽しいな。人を殺すより」

「―――そう」

 呆れを帯びた言葉。ひびの入った階段を崩し、一段ずつ下りていく。

「人を殺す、か」

 一人になってから思い出すように呟く。

『ねぇ。私を殺してって言ったら、殺してくれるかしら?』

『殺して欲しい時は私に言って』

 色々な感情が入り混じっている言葉が脳裏を横切る。

「お前は、死にたいのか?」

 もしあの時、お前を殺して欲しいと言えば彼女は目の前で死んでくれただろうか。答えは―――Yesだ。

「どうして死にたがる?」

 死にたくても死ねない奴らは少なくないというのに。

「俺は、誰にも死んで欲しくねぇよ」

 見上げた夜空。そこにはいつの間にか、無数の星が彼を見下ろしていた。

「なぁ、ベル。お前はどうしたいんだ?」

 

いえーい。

意味分かんねぇよ、じっぶ〜ん♪

いやね、最近『次回予告』でよくMZD、ベル、KKの三人の名前を使うのさ。

そしたら必然的にMベルが。

しかしベルはKKがおる。

んならフリーのBを使えばどうやとゆー事で出来上がったMB。

ベルちゃん二股のように見えますが違いまっせ〜?

ま、この二人にはそのうち取り合いしてもらうと思いやすが(笑)。

うちのMZDは見かけは子供でも中身は大人(おっさん)ッス。

Bも↑に同じく。

せやからできるだけ大人の二人を目指してみやたし。

02.9.16

戻る