「お〜れのぉ〜とお〜しがぁ〜まっかにも〜え〜るぅ〜♪」

 まだ太陽が眠りこけている朝。目覚しを兼ねている時計はアナログ式で、カチッと音をたてて六時を示す。

 この城の住人はアッシュを除いてあまり早起きではない。それどころか、目覚ましや誰かが起こしに来ない限り寝続

けてしまう。なのに今日は、そのアッシュより早く起きた者がいた。

「悪をきっりっさぁ〜いてぇ〜♪」

 一応朝早いという事でコンポの音量は最小になっているが、歌っている本人の声はガンガンに飛ばしている。実際の

所、残りの二人の部屋とは相当離れていて静かだろうと五月蝿かろうと関係はないのだが。

 元は客室だった部屋を改造しただけあってほどよく広く、ほどよく狭い。最初に何があったかと思い出すとベッド、タン

ス、机、椅子、おまけのクローゼットぐらいだった。しかし、今は完全に部屋の主の趣味へと走り、漫画本や小説がぎっ

しりと入った建ち並ぶ本棚とフィギアが飾られている小ケース。コンセントとコードを差したままのゲーム機。たまには

仕事をしていると感じられる何か書きなぐられた用紙。最後を除けば、それは『オタクの部屋』という単語がよく似合う。

「はば〜たけ〜ザグレ〜トギャンブラァ〜♪」

 歌詞が終わり、メロディを口ずさむ。

 スマイルはパジャマのまま身支度を整え、名前の通り幸せいっぱいの笑みを浮かべた。

「さて。そろそろ準備をしよっかな」

 ごちゃごちゃとした化粧道具をかき集め、聴く為に録音しておいたMDを止める。

 廊下はシンとしている。朝ごはんを作る為に早起きするアッシュでもまだ部屋から出ていないようだ。

 ドアを閉め、近い洗面所を選んで廊下を走る。パタパタとビニールスリッパが笑ったが、誰の耳にも入っていない。

 暗闇の洗面所に光を灯し、荷物を置いてから包帯に手を伸ばす。

「〜♪」

 上機嫌で鼻歌まで漏れる。

 包帯の端が顔から離れ、隠れていた左眼が鏡に映る。

「―――ヤな眼―――」

 一言呟いて蛇口を捻る。

 雑音。

 水に触れると青い手が消える。一瞬その光景に手が固まったが、両手で水をすくって顔を洗う。

 鏡を見ると、映っているのは顔のない妖怪の姿だった。

 色のついた液体が水道管を通って流れていく。

「タオル、タオル」

 白いタオルに少しだけ青が染み込む。

 手馴れた手つきで顔を作っていく。ファンデーションで肌色を塗りつけ、隠す為に左眼を眼帯で覆う。目立つ右眼は茶

色のカラコンをはめて、見た目は少しヴィジアル風味―――青い髪辺りが―――な青年。

「さて、と」

 最後に白い手袋をはめて終了。

 荷物を抱きかかえて部屋へ駆け戻り、パジャマを脱ぎ捨てて着替える。

 季節は冬。肌を隠す服が違和感無く着れる時期だ。

 首から見える包帯をちらつかせ、鞄とマフラーを持って部屋から出た。

 

「あれ?スマ、今日出かけるんスか?」

 食堂に顔を出すと、いつの間にか朝食の準備を済ましたアッシュの姿があった。いつもと肌の色が違う事は外出の

合図で驚かずに問い掛けてくる。

「うん。ちょっとねぇ」

 テーブルの上には二人分の食事。昨日の晩帰ってきたのはどうやらユーリらしい。空いている席に荷物を置き、自分

の指定席に腰かける。

「いつ帰ってくるっスか?」

 エプロンを外してアッシュが向かいに座る。

「ん〜。夕方ぐらいかも」

「じゃあ晩御飯はいるんスね」

「アッシュ〜。僕カレーがいいなぁ」

「この前食べたじゃないっスか」

「ぶー。だけど食べたいのーっ」

「駄目っス。それに、今日の献立はもう決まってるっス」

「ケチー」

 今日の朝食は場に似合わず和食。将来店を出すのが夢のアッシュは洋食、和食共に作れる料理人になりたいらし

い。それがこの結果だ。ユーリには不評で彼が食卓にいない時にだけお目にかかる事ができる。

(まあ、ユーリが嫌ってるのは料理の方じゃなくて箸なんだけどね)

 手袋をはめた手で器用に箸を使い、よく漬けられた漬物を口へ放り込む。

「どうっスか?」

「おいしいよ」

 お世辞でもなんでもない。アッシュの料理は何でも美味い。カレーの事をまだ根に持っていて声のトーンが少し低かっ

たが、アッシュは関係なく喜んでいる。

 お茶碗にお茶を注いで残っていた米粒なり一気に飲み干す。箸を揃えて手を合わせる。

「ごちそう様」

「もう行くっスか?」

「うん」

 席を立ち、マフラーを巻いて鞄を肩から下げる。

「じゃ、行ってくるねぇ」

「気をつけるっスよ」

「分かってるって♪」

 心配性なアッシュの言葉を背中で聞く。

 誰もいない廊下に、ドアを閉める音は嫌というほど響いた。

 

 都会は人通りが多すぎる。別にメルヘン王国が田舎だと言っているワケではないが、信号が変わった瞬間の人波に

は今でも慣れない。

(すごいよね、人間って。よくこんな短時間で大きく成長するよ)

 波に流されてふと空を見上げる。

(僕が生まれた頃にはまだ電気もなかったのに。何だっけ?鎌倉時代ってやつ?)

 生まれてまだたったの六百強。多分七百はとっくに越していると思うが。人間にとっては長い時間。ほぼ不老不死と言

われているスマイルに言わせると、入り込む事ができるテレビを見ているような感覚だ。

 切符を買って地下鉄に乗り込み、揺られ揺られて数駅先の目的地へと着く。改札口を出ると眼の前に広がる巨大な

地下街。今では全て慣れたルートだ。

「―――ねぇねぇ」

「―――何?」

「―――今の彼。ほら似てない?」

「―――え?……あ。『Deuil』のスマイル!」

「―――でしょでしょ?」

「―――だけど雰囲気違くない?」

「―――んー。他人の空似かなぁ」

 すれ違う人々が口を揃えてスマイルを見つけては他人の空似かと勝手に納得していく。

(ヒッヒッヒッ。面白いよね、人間って)

 肌の色を変え、包帯を眼帯にし、今時の服装にしただけなのに誰も本人だと関心を持たない。そんな人間達が、スマ

イルは嫌いだ。

 時計が十時を示す。

 ほぼ同時刻にスマイルはアニ●イト前に着いていた。開店時間。エプロンに色々なバッチを付けた店員がドアを開け

る。

「おはよう御座います。いらっしゃいませ」

 元気な店員の声に答えるように開店前から並んでいた客が店内へと流れ込む。

 聞き覚えのあるアニソン。見覚えのあるアニメが繰り返し再生されている。店内には溢れかえるほどのグッズ達。同

人誌が力を持ち出して少しエリアを広げたような気もするが、興味がないので無視っておく。

 手にとったのは小さな方のカゴ。グッズのエリアへ移動し、新商品をカゴへと放り込む。

(ん〜。この前来たばかりだからあんまりないなぁ)

 嘆息し、軽いカゴをレジへと持っていく。入ってすぐだけあって、まだレジに人は並んでいない。カゴをカウンターに置

き、財布から予約用紙を取り出す。

「すみません。これ、お願いします」

 ちなみに今回は新ギャンブラーZ@DVDとビデオ各一本ずつ。勿論初回だ。

「これでよろしいですか?」

「はい♪」

 初回特典の文字を確認して頷く。財布から今度はポイントカードとクレジットカード―――綾●レイver―――を取り出

してつり銭入れに置く。

 店員の手つきは手馴れたものだ。気付けは袋詰めにされた商品と三枚に増えたカードを手渡される。

(さて、と)

 袋を抱きしめ、店から出る前に踵を返す。行き先は予約コーナ。

(えーっと、新ギャンブラーAに〜?あ、林●さんのCD出るんだ。あとぉ……うるせ●やつらのDVD?あ♪監督●井さ

 んだぁ。予約しよぉ。それから―――)

 人気爆走中『Deuil』のメンバー、スマイルだからこそできる予約のまとめ買い。へらへらした笑みを浮かべて記入した

紙を店員へと差し出す。

「すみません。予約なんですけど♪」

 

 レシートはすぐに捨て、空いたスペースに予約用紙を忘れないように入れておく。カードも指定位置から動かさない。

「さて次はぁ♪」

 再び地下鉄に乗り、次はと●のあなへ。アニメ●トの袋は鞄に詰め込んで店内へ。

 ア●メイトより開店時間が三十分遅いだけあって客はやはり少ない。エレベーターはあえて使わず、階段を駆け上り

本のエリアへ。

 財布の中をあさればまた出てくる予約用紙。

「すみません〜。予約してた須馬ですけど〜」

 これ以上と無く安直な偽名。それでも店員は彼が『Deuil』のスマイルだと気付かない。

「あ。須馬さん!」

 というか、店員と顔見知りになってとてつもなく仲がいい。

「どうも〜。届いた?」

「届いてますよ。そうそう、あの入手が難しかった『ギャンブラーZ画集ファイナル』入荷しましたよ!」

「本当っ?」

「えぇ。多分須馬さん欲しがると思って取っておいたんですですけど」

「ありがとー!てゆうか本当?すっごく嬉しいよ僕」

「でもすみません。今回ばかりは三冊無理でしてた」

「いーの、いーの。これは一冊あるだけでも貴重だよ?君に感謝しないと」

「そんなっ―――はい。予約していた東京●ゅう●ゅう五巻三冊と、新ギャンブラーZ設定資料集三冊。彼●ノ十四巻

 三冊にBL●ACH四巻三冊。あと画集っと。これで以上ですね!」

「うん。ありがと♪」

 カウンターに積まれた計十三冊を見つめ、満足そうにスマイルは笑みを浮かべた。

 各三冊ずつあるのはオタクの基本。一冊は観賞―――読書―――用、一冊は保管用、そして残り一冊は予備用。

本当ならば予備用は二冊ほどほしいのだが、アッシュに無駄遣いだと止められている。

 勘定を済ませ、紙袋に入った本達を抱きかかえる。

「有難う御座いました」

「じゃ、また来るねぇ」

「はい!」

 階段を駆け下り、再び一階。奥に位置するフィギアエリアに入ると無数の視線を浴びる。その中でスマイルが一番心

惹かれたのは、非売品の札が貼られた『ギャンブラーZ超合金』だったりする。周囲に女性キャラの半裸や全裸のフィ

ギアがあるというのに、そちらにも目もくれずに、だ。

(ギャンブラーZ。やっぱいつ見てもカッコイイよねぇ)

 その瞳は白黒テレビで初めて放送された鉄●28号を見ている子どもの輝きを放ち、名残惜しそうに視線を外す。

(ま。非売品じゃしょうがないよね)

 十三冊の本を抱きしめ、重い足取りで店から出る。背中にかけられた「有難う御座いました」の言葉も、大好きなアニ

ソンも、今の下がりきったテンションを戻す事はできない。

「さーって。次は何処に行こうかな」

 呟く言葉は力を失っていた。

 

 定番ルートで●ーマーズ、まんだ●けとハシゴし、気付けば空は茜色に染まりかけていた。肩に食い込む荷物に耐

えながら、腕時計に視線を下ろして眉をひそめる。

「どうしよ。もう帰ろっかな?」

 空を見上げればカーカーと烏が飛び交っている。口の中で烏の計画などと呟きながら、帰りを待っているだろうアッ

シュの事を思い浮かべている。彼の事だ。もう夕食の準備をして帰りを待っていてくれているだろう。ユーリはどうせ帰っ

てこようと帰ってこなかろうと反応が同じ事を知っているから考えようともしない。

 ニッと口を三日月にし、地面を蹴り上げる。

「よっし。お土産でも買ってか〜えろっ♪」

 

 人数分のケーキを片手に城までの帰り道を走る。

 高い高い空の下、スマイルは久しぶりのオフを楽しんだ。


やってしまった。

オタクスマッス。

すみません、すみません普通のスマFanの方々っ(汗)。

俺ん中じゃスマはオタクなんッス。

シス●リとかPlayしてるんッス。

多分家具の中にPCもあって(Win●owsXP)、PCソフトは全て八禁ソフトっ!!(爆)

はい、これがうちのスマっす。

ちなみにギャンブラーも愛しとりやす、半々ぐらいで。

はい、ではそろそろ逃げ!(逃走)

02.9.13

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