最近、小さな鈴を買った。

 自分の名前と同じそれを持っていると、気持ちも音色も澄むような気がしたから。

 

「さーって。あと何か買わないといけないものってあったかな?」

 少し重い買い物袋を両手で持ち、ふと空を見上げる。

 今日は店長の用事があるとかで店が休み。特にやる事もないので、ベルは久しぶりに買い物に出かける事に

した。最近生活に必要なものぐらいしか買っていなかっただけあって他のものに目移りしてしまい、気付けば荷物

は凄い量になってしまっている。

 チリンと涼しい音が響く。

「んー。多分いいと思うけど―――だけど、これを逃したら当分買い物に行きそうにないし」

 綺麗な眉をひそめ、呻き声を漏らす。

 歩くたびに鳴る音。

「ま、いか。じゃあ、あとは帰るだ―――キャッ!」

「っ!」

 上の空に近い状態で歩いていたのが悪かった。真正面から近づいてきていた人に気付く事もなく、そのままぶ

つかり合ってしまった。

 音が止まらない。

「―――すまん」

「えっ、いっ、いえっ、こちらこそすみませんっ。前方不注意で……って」

「ん?」

 荷物の無事を確かめる前にぶつかってしまった相手に視線を移す。

 二人は目が合うと、目を丸くした。

「Yuliさん!」

「お前は―――」

「ベルです」

「あぁ。覚えている」

 お忍びで出てきたのか、紅色の瞳を隠すサングラスと細く綺麗な銀色の髪を覆う帽子を深々とかぶっている。

サングラスをかけ直し、冷たい視線を向ける。

「どうかしたのか?なにやら上の空のようだったが」

「えっ?いえっ、ちょっと考え事をしていただけで」

「そうか?ならいいが」

「あ。そう言えばYuliさん。今日はオフなんですか?」

 いくら人がいないとはいえ、自然と声が小さくなる。身体を動かすと、買い物袋と涼しい音が交じり合った。

 その微かな音にユーリが少なからず反応した。

「―――あぁ」

「Ash君やSmileさんは?」

「あいつらはソロ活動で忙しいらしい」

「らしいって……」

「朝起きたら、もう居なかった」

 会話はそう長く続かない。

 それは自分のせいだと分かっていながら、ユーリは少し視線をずらした。勿論それはサングラス越しに行った事

で、ベルは気付いていない。

 チリンと音が耳を刺激する。

「―――鈴」

「え?」

 突然呟いたユーリの言葉に目を丸くする。

「鈴をつけているのか?」

「えっ、えぇ。Smileさんに言われてから、財布につけてみたんです」

「スマイルに?」

 聞き返したが、ベルは気にもかけずポケットの中から財布を取り出した。シンプルな分、小さいながらも可愛らし

い鈴が映えて見える。

「この前、ちょっと公園でSmileさんと会ったんです。その時の会話であたしの名前の意味は「鈴」だって教えてくれ

 たんです」

「―――「鈴」―――だと?」

 あらかさまに分かるようにユーリの表情が変わる。

「どうか、しましたか?」

「スマイルが言ったのか?」

「はい。『ベルってのも英語で、「鈴」っ意味なんだよ』―――って」

「あのバカは」

 嘆息交じりに言い捨て、額に手を当てる。

 隠れた表情を覗き込むようにしてベルは首を傾げた。

「Yuli、さん?」

「あいつの言う事を信用するな」

「え?」

「お前の名前の意味は「鈴」ではない」

 さらりとそう言い、ベルがその言葉の意味を把握するまでに一呼吸できるほどの間があった。

「えっ?違うんですかっ?」

「違うに決まっている―――本当に、あのバカは」

 釘を打つように再度、同じ言葉を漏らす。

「じゃ、じゃあ。Yuliさんは知っているんですか?」

「ん?」

「いえ。あの……あたしの名前の、本当の意味を」

「―――当たり前だ」

「教えて下さいっ!」

 鈴が鳴る。

 食いかかる勢いのベルに滅多に崩れないポーカーフェイスが乱れた。細い眼を見開き、視界一杯にベルを取り

込む。その表情が意外にも真面目すぎて呼吸する事すら忘れてしまう。

「―――別に教えてはいけないわけではない」

「じゃあ」

「それがお前の望みなら教えてやる」

 細い喉がゴクリと音を立てるのがはっきりと聞こえた。

 紅色の唇が言葉を紡ぐ。

「―――「美しい」―――」

 一言呟き、伏せていた眼を動かす。

「『Belle』―――それはフランス語で「美しい」の意味だ」

「フランス語―――?」

「お前の母国語ではなかったのか?」

 鋭い指摘に首をすくめる。

「そう、です」

「灯台下暗しとは、この事を言うんだな」

「その通りですね」

「何にしろ、あいつの言う事は信用するな」

「Smileさんですか?」

「あいつはまともな事を言わん」

 少し顔を全面的に横向ける。すると、押し殺すような笑い声が耳に入ってきた。

「どうして笑っている?」

「あっ。すみません」

 ベルはやっと自分がしていた行動に気付き、口を押さえる。

「どうして笑ったか聞いているんだが?」

「いえっ……仲がいいんだなって、思って」

「仲がいい?私とスマイルがか?」

「えぇ」

「―――人間の考える事は分からん」

 独り言のように呟く。

「何か、言いましたか?」

「いや。何も」

 話が長引かないように踵を返す。

「悪い。時間を取らせてしまったようだ」

「そんなっ、元はと言えばあたしが」

「失礼する」

 全身を包み込む黒いスーツをなびかせる。カツカツと規則正しい音がリズムを取る。

 闇の使いが見えなくなるのに、そう時間はかからなかった。

 残されたベルが一人、買い物袋を下げたまま影が消えるまで見送る。

「―――行っちゃった」

 一体何だったんだろうと内心思うが深くは考えない。

 ふと視線が手元の財布へ落ちる。

「どうしよう」

 名前に合わせて買った鈴だというのに、これでは意味がない。

 チリンと涼しい響き。

 その音にベルは表情を緩ませた。

「ま。別にいいかな?綺麗な音がするし」

 鈴をつけたまま財布をポケットへしまう。

「さて。あと何か買わなきゃいけないものは―――」

 止まっていた足を動かす。

 髪とじゃれる風に、鈴の音が交じり合った。


はいはいはいはいーっ。

一体何を書いとるんやと思いの皆さんっ。

はい、ほとんど意味はありませんっ(汗)。

とゆーか、この小説は言い分けようの小説ッス(滝汗)。

何故ならば、ベルちゃんの名前の意味を間違っていたのを知ったから!

―――駄目駄目やん俺。

ベルちゃんファン失格?―――うん、失格。

ま、そんなこんなで正しい意味は、フランス語で「美しい」の―――ハズです(汗)。

いや、KHの攻略本でそんな事を書かれとったから(某作品のヒロインの名前と同じ)。

て事で、即座に書き上げました。

すまん、スマ。

そしてすまん、ユーリ。

もう脈絡ねぇよ、この話(汗)。

02.8.14

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