3人が同じ日にオフが取れる事は、わりと珍しい事だ。

 

「―――アッシュ?」

 仕事も無いというのに身体はいつも通り早く起きた。視界に入ってきたのは殺風景な自分の部屋。生活する上

で最低限の物しか置いていない。

 暗い。それは部屋のカーテンを閉めきっているからとも言えるが、太陽がやっと顔を出した時間だからという事

にも納得できた。

 布団から出ると冷え切った空気が身体を震わせた。手探りで近くにあったカーティガンを着込み、ベットから下

りる。

 廊下のドアを閉める音が響いた。

 踵が床を蹴り、カッカッという音と布のなびく音が混ざり合う。そのメロディはリビングまで止まらなかった。

 無人のリビング。

 少しの間周囲を見回し、だれもいない事を確認してから移動する。

「アッシュ」

 隣接する食堂のドアを開ける。そこでユーリはやっと眉をひそめた。

 いつも準備されている朝食が無い。

 いくら朝早いと言っても、ここへ来るまでに太陽はすっかり顔を出しきった。カーテンのない食堂の窓から暖か

な日差しが差し込んでくる。

 歩くスピードが上がった。

「アッシュ!」

 口調も少し荒っぽくなり、力任せにドアを開け放つ。

 そこにアッシュの姿は、無かった。

 

 リビングに戻り、ソファーに身体を預ける。

 黒いカーテンが淡い光を放っている。

(何処に行った)

 苛立ち。

(一体、何処へ行ったんだ)

 そして、孤独感。

 ユーリの朝は、仕事があろうとなかろうと毎日同じだった。目覚め、意識がはっきりとしないままカーテンの開

いたリビングを素通りし、朝食が準備された食堂に入る。

『あ、ユーリ。おはようございますッス』

 そこに忙しそうがアッシュがいつもいた。ユーリの姿を確認すると、耳をピクリと動かして嬉しそうに挨拶する。

 なにの、今はいない。

 柔らかなソファーに飲み込まれていく。

 独りは、嫌いだ。

 いつからそう思いだしたのだろう。永い眠りにつく前はそれが当たり前だと分かったというのに。

『ユーリ!』

(あぁ……そうか)

 はっきりしない意識の中で納得する。

 眠りから目覚め、アッシュと会って全てが変わった。独りに対する恐怖も、その時初めて知った。

「―――――――――アッシュ―――――――――」

 宿り木を見失った鳥は、静かにないた。

 と、次の瞬間。

 視界が突然蒼一色に染まった。

「!?」

「あれ?ユーリ?どーしたの、こんな所で?」

 まだ少し寝ぼけていた意識が瞬時に覚醒する。縮まった瞳孔をゆっくりと戻し、沈黙を挟んで相手に聞こえる

ように嘆息した。

「お前か。スマイル」

「おはよー、ユーリ」

 ユーリに覆い被さるように身を乗り出したスマイルは、その名の通り笑みを浮かべるとそのままの状態で話を

続けた。

「一体どうしたの?こんなところで」

「別に―――」

 スマイルの目線から逃げるように顔を背ける。

 たったそれだけの行動だというのに、スマイルは一体彼が何を言いたかったのかが手にとるように分かった。

「アッシュなら部屋じゃないの?昨日帰ってくるの1番遅かったし」

 反応は、何も返ってこなかった。

「たまには朝ごはん食べなくても死なないって。ヒッヒッヒッ」

「っ!私はそんなっ―――」

「分かってるって」

 やっと上半身を上げる。

 反射的に眼を細めずにはいられなかった。いつの間にか日光がカーテンを突き抜けて部屋を照らし出してい

る。

「まぁ。たまにはゆっくりさせてあげれば?」

 そう言って手袋をはめた手を振った。

「あ、そうだった。アッシュに今日はお昼いらないって言っといて」

 ゆっくりとソファーに正しく腰掛ける。するとスマイルがいつもと違う服装な事に気付いた。左眼を隠していた包

帯を眼帯に変え、横長の黒いサングラスをかけている。変装になっていない気もするが、本人はそのつもりら

しい。

「何処か行くのか?」

「ちょっとね。アニ●イトに予約してあったギャンブラーZのDVD貰いに行って、その後まんだ●けでギャンブラー

 Zのフィギアを探しに行くんだ♪」

「―――勝手に行って来い」

 下らないと胸中思い、嘆息交じりに言い捨てる。

「うん、じゃあね!」

 相当嬉しいのか、ギャンブラーZの主題歌を鼻歌で歌いながら、開けっ放しだったドアの向こうに姿を消した。

そう厚くないはずのドアが空間を切断する。

 音が無くなった。

(これからどうする―――?)

アッシュがこの城にいると分かり、孤独感は消えた。それでもカーテンの開いていないリビングや朝食の無い食

堂、いい匂いがしないキッチンはユーリの心の中と同じで、何か1つ物足りない。

 無言のまま立ち上がる。足は自然と心の隙間を埋める為に彼の元へと向かった。

 

 アッシュの部屋は城の1番離れの辺りにある。3人がここに一緒に住むと決めた時、本人がこの部屋を選ん

だのだ。

 行き届いた手入れ。ユーリ1人の時は埃がたまっていたというのに、今では赤いカーペットが顔を出している。

「―――っ……」

 名前を呼びかけて途中で飲み込む。

『アッシュなら部屋じゃないの?昨日帰ってくるの1番遅かったし』

 彼の言う通りなら眠りを妨げるのはよくない。もし起こしてしまったとしても彼は笑って許してくれる。しかし、後

で辛そうな顔をしている彼を見たくはない。

 鍵をかける習慣のないドアはすんなりと開いた。音をたてずに静かに中へと入る。

 ユーリの部屋とは違い、アッシュの部屋は生活感が感じられた。元は客室だっただけあっていくつかの家具

はすぐに使えるものばかりだつた。そこから彼は自分なりに必要な物を購入して部屋を作っていった。

 ベットに近づく。相当疲れていたのだろう。珍しく服を脱ぐ事すらせずに布団に潜り込んでいる。

(無茶をしすぎだ)

 昔に何度も注意した。だというのにいつも大丈夫だと言って詰め詰めなスケジュールを組んでいる。

(この、バカが)

 怒っているはずなのに、何故か笑みが零れた。

 規則正しい寝息が心を落ち着かせる。

 ベッドの傍に腰を下ろすと、ユーリはそのままベッドにもたれるようにして眼を閉じた。

 

 数少ないオフを眠りに費やすもの、またいいかもしれない。

 

 


はい、珍しく感想を書いてみます。

どうでしょか?Deuilの皆様の話。

とゆーかユーリメインッス。

いや、ほんとはユ―――とゆーリクやったんやけど、ここではこれでご勘弁を(笑)。

ちゃんと書いた方は個人に送りやすさ、ひさぎ。

つかこれ、一応9090(くれくれ)HITな感じで(汗)。

スマイルはふと書いとったら出てきたんやけど、アニ●イトとまんだ●けは個人的に入れたかった(笑)。

ほとんど伏字の意味ねぇけどさ。

形も少し変えてみたんやけど、この方が読みやすいやろか?

 

02.6.18

 

戻る