レオが珍しい物を持ってきた。いつものカメラとは違った、もっと大きくて不恰好な黒い金属の塊。
「何?それ?」
朝ごはんの食パンを頬張りながら、視界の隅でレオが嬉しそうに磨いている姿を捕える。彼は昨日からあんな感じだ。
外から帰ってきたかと思うと―――確か買い物に行ってくると言ってた―――あれを手にして、スキップしそうな勢いで
僕の前に飛び込んできた。
そして、今に至る。
とうとう痺れを切らして僕はそれが何か聞いてみる事にした。昨日のうちに聞いておこうかと何度か思ったのだが、あ
まりにも幸せそうな顔をしているレオの邪魔をしたくないと思ったからだ。
僕の声にレオはやっと顔をあげた。珍しく朝ごはんを食べる事も忘れて一生懸命それを磨いている。
「これ?見て分からない?」
「分からないから聞いてるんだけど」
ふぅ、と溜息をついてジャムを塗ったパンを口の中に放り込む。
「またガラクタでも拾ってきたの?」
「むっ。ガラクタじゃないって。ほら、ちゃんと見てっ!」
「んっ?」
目の前に突き出されてそれにピントが合わない。少しレオの肩を押して後ろに引かせると、なんとかそれが見覚えの
ある物に変わった。
「カメラ?」
「ただのカメラと思ったら大間違いっ!これは、ポラロイドカメラだって」
「ポラロイド、カメラ?」
レオの言葉をオウム返しに問い掛ける。言われてみれば、金属の固まりはレンズもシャッターもついていた。
「でもどうして?」
二人は写真を撮るのが好きという共通の趣味を持っていて、お揃いのデジカメをつい最近買ったばかりだ。なのに、
いちいちこんなアンティークの部類に入るポラロイドカメラを買った理由が分からない。
「どうしてって、これ良くない?」
「なんかすぐに壊れそう」
「酷いなぁ、スギは。これでも僕が愛情込めて手入れしたからちゃんと動くんだよ?」
チッチッチッと人差し指をたてて振る。
「そうだっ。折角だから一枚撮ろっか?」
「え?」
「うん、そうしようっ。ほら、スギ君。もっとこっちに来てっ!」
「い、今撮るの?ヤだって、ねぇっ」
「どうして?別にいいじゃん」
僕の意見など完全に無視して肩に腕を回す。がっちり肩を掴まれて、僕は逃げ場を失った。笑みを浮かべたレオの
顔がすぐ側に近づいてきて、ポラロイドカメラが目の前から僕達を取り込む。
「いい?いっくよ〜?」
ぱしっとシャッターが音を―――
「……あれ?」
たてなかった。
「もしかして、フィルムを入れ忘れたとか?」
「――――――」
「図星なんだ」
内心ではよかったと胸を撫で下ろす。
ふと盗み見るようにレオに視線を動かすと、これ以上となく悲しそうな顔をした彼がそこにいた。
なんだか、凄く僕が悪者みたいに感じる。
「……フィルムぐらい、買ってこればいいだろ?」
「――――――」
「ったく。失敗ぐらい僕だってするだろ?だから、そんな事でいじけるなって」
「だけど……折角撮ろうって思ったのに」
使えないポラロイドカメラを抱きしめてうずくまる。
僕にどうしてほしいの?
問いかけたくても問い掛けられない。頭を掻いてレオが何か反応するのを待ってみる。だが、彼は小さくなったまま
ピクリとも動かない。
「―――だーっ。行こうっ、レオ!」
「え?行くって、何処に?」
「フィルム買いにだよ、フィルムっ」
パンを無理やり口の中に押し込む。あ゛ー、喉に詰りそう。
呆気にとられた顔をしてレオはぽかんとしている。
「ないなら買いにいけばいいじゃん。そして二人で撮ろっ?」
「―――うんっ!」
やっとレオに笑顔が戻った。
お気に入りのサングラスをかけて、お揃いのベレー帽をかぶって。財布と空のポラロイドカメラを持って出かけよう。
今日という、一瞬で過ぎてしまう瞬間をその場に残しておく為に―――
やっとPOP’N小説書いたかも(汗)。
いや、カメラとゆえばこの子らかと思って。
うん、ちなみにポラロイドカメラなんざ見た事ありません。
昔からえぇなぁ、えぇなぁとはゆっとったんやけどさ。
うん、なんかよくない?
撮ったらすぐ見れるってのが。
問題は……俺が写真撮られるのが嫌いって事(笑)。
うん、撮るのは好きなんやけどね。
せやからカメラからは逃げてばっか。
今は特に、カメラ付き携帯から逃げ回る日々(笑)。
うん、あれ嫌い。
03.3.17