情緒不安定って言うのかな?

 あんまり分からないけど、なんか不思議な感じがするんだ。

 無性に血が見たくなる。

 最近そんなのが続いてた。

 気付けば腕を切って。

 そういえば、そのせいで僕の部屋だけ床にシミができちゃったんだっけ?

 アッシュがすっごく困った顔してたなぁ。

 ヒッヒッヒッ、ゴメンねアッシュ。

 だけど、なんでか知らないけど止められないんだ。

「―――また、やったのか?」

 声はベランダからした。

 ドアはしっかりと閉めておいたのに、月が綺麗だからって窓を開けっ放し

にしておいたのは間違いだったみたいだね。だって、こうしてお邪魔虫が

またこうやって来たんだから。

「うん。悪い?」

「別に」

 怒るかもしれないと思ってた部屋の持ち主は、意外とさっぱりした反応

を見せてくれた。なんか、それはそれでつまらないかも。

 手にしたナイフをベッドに放り投げて血塗れの腕を振り回す。

 壁に、床に、紅色の絵の具が飛び散る。

「何?またアッシュに何か言われて来たわけ?」

「ただの気まぐれで見にきただけだ」

「そ。それならそれで、別にいいけど」

 真っ白な手すりに腰をかけると血溜まりが出来た。

「最近どう?」

「ファンが五月蝿い。たまには顔を出したらどうなんだ?」

「ん〜。だけど、今は仕事する気ないしぃ?」

 下らないと付け足して笑う。

 紅色の月光の下、全てが狂う。

「やっぱり、ユーリとしては出てきて欲しいの?Deuilのリーダとして?」

「私は別に構わん」

 我儘吸血鬼はいつもの無表情を浮かべたままさらりと答えた。

「お前の好きにすればいい。脱退したいというなら勝手に発表もしといてや

 ろうか?」

「それはちょっと嫌かも」

 楽と言えば楽だけど、真剣に剃刀入りファンレターでもきそうだしね。あ、

だけどそれはそれで楽しいかも。

「―――それだけ?」

「それだけも何も、別にお前に言う事はない」

「そう。じゃあ、僕はもう寝るよ。なんだか疲れちゃった」

 なんて言いながら、本当は別に疲れるような事はしてないんだけどね。一

日中、ただぼけぇっと部屋で時間を無駄に潰してるだけなんだから。

「―――スマイル」

 窓を閉めようとしたら名前を呼ばれた。

「何?」

 答えると、ユーリは返事を返さないで、代わりに何かを投げよこした。そ

れは、小さな小さな瓶。中には白い錠剤がいくつか入ってた。

「何これ?」

 試しに聞いてみる。

「トランキライザー」

「横文字じゃ分からないって」

「精神安定剤と言えば分かるか?」

「んーっ。日本語も嫌いだから分かりづらいかも」

「別に難しい言葉を使った覚えはないが?」

 手すりに立って紅色の翼を広げる。

「僕にこんなのよこして、どういう気なの?やっぱり戻ってきてほしいとか?」

「私はともかく、アッシュはそう思っているだろうな」

 そっぽを向くユーリに素直じゃないなぁと呟く。返事は毎度の事ながらある

わけがない。

「またな」

「バイバーイ♪」

 暗い闇の中にユーリは消えた。それを確認してから窓を閉じる。ついでに

カーテンも閉めて外と完全に中を隔離する。

「さーって、寝ようかな?」

 振り上げた腕はまだ血を流している。

「―――トランキライザー、ねぇ?」

 また下らないと呟く。

 試しに一粒だけ出して噛み砕いてみた。

 はっきり言って―――まずい。

「やっぱり水で飲むのが普通?」

 だが、ここ数ヶ月閉じ篭ったままの部屋に水などあるわけがない。

「ま。別に消化できたらそれでいいよね?」

 蓋を開けっ放しにして枕元に放り出す。勢いあまっていくつか中から飛び出

した。

「僕って、精神安定してない?」

 さっきから問い掛けてばかりだなと思いながら枕に顔を埋める。あぁ、なん

だか気持ちいいかも。

 まだ口の中が苦い。薬ってこれだから嫌いだ。

「ユーリほどじゃないと思うんだけど―――?」

 だって、この薬ってユーリのお下がりじゃない?


 

 書いてて楽しかった(笑)。

 ちなみにこれも何を書くのか悩んだんよ。

 つか、お題がトランキライザーやし。

 脳裏を桜さんの「とらんきらいざ〜」が駆け巡って駆け巡って(笑)。

 元ネタが分からん人は「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」を見なさい。

 DVDで見る時にご丁寧に「トランキライザー」ってタイトルになってっから。

 うん、あれは素晴らしいね(笑)。

 ま、そんな感じで俺の中で情緒不安定な人を呼び出してみたらスマでした。

 あぁ、ゴメンなスマ(笑)。

 せやけど君が一番こーゆーの似合うのさ。

 ま、ユーリも同じくなんやけどね。

 03,3,17