【 イザベル(欧) と フロリダファンシー(米) 】

結論をまず言うと、私は日本にいるアレはヨーロッパ発祥の「イザベル」だと思う。
いや、思うというより、断言してもいいところを大人しめの表現にしただけだが。

アメリカの錦華鳥ブリーダーのウェブサイトにはフロリダファンシーの写真が出ている。
ヨーロッパのウェブサイトにはそれと同じような鳥の写真がイザベルの名で出ている。
そしてお互いに「ふたつはおそらく同一の変異であると考えられる」と書いている。

長い間そう書かれてきたがついにそれらは「同一ではない」ことが証明された。
アメリカのロイ・ベッカム氏によって今まで2種の間にあった謎がやっと解明されたのである。
彼のウェブサイトにその事実が発表されたのはつい最近(2007年8月)のことである。
     Welcome to eFinch.com(by Roy Bekham)   http://www/efinch/com/

ここで不思議に思わないだろうか。なぜ今ごろやっと解明?と。
私達日本人にとってはヨーロッパもアメリカも同じ「海外」であり、ひとくくりにしている部分がある。
お互いやりとりがあり、どちらの国の錦華鳥もお互いの国にいるのだろうと。
だがそうではない。
そうであればとっくの昔に解明されていたし、同じ品種に違う名前がつくわけもない。

まずイザベルだが、これはずっとずっと昔からヨーロッパにいる。
日本にも私が物心つく前からいた。はじめはおそらくグレーイザベルがいて「古代」と呼ばれていた。
フォーン遺伝子は伴性なのでフォーンイザベル表現型ははじめはメスしかいなかったはずだ。古代のメスは白っぽいものだと思われていたかもしれない。
その後フォーン遺伝子がオスにも入ったことによりフォーンイザベルのオスも増えてきた。
これは一般市場のことを言っている。リッチな愛好家はすでにもっと前からフォーンイザベルのペアをヨーロッパから輸入して飼っていたかもしれない。
このフォーンイザベルという白いタイプを私達は一般的に「イザベル」と呼んできた。

対して、フロリダファンシーはアメリカで1960年代最終頃に初めて出現したようであるが、広いアメリカの何箇所かでほぼ同時に出現したようで、それぞれの飼育者がそれぞれに品種名を名づけて(テキサスファンシーとかホワイトシルバーとか)呼んでいた。
ここでヨーロッパのイザベルによく似ているからと「おぉアメリカでもイザベルが出来たぞ」と単純に混同しなかったことで混乱を招かずにのちにアメリカ独自の変異品種「フロリダファンシー」が確立することになる。

1975年頃、フロリダ州Tarpon Springsに住むヘイゼル・キップという女性ブリーダーが自身の系統から出現して殖やした「フロリダファンシー」という種類を市場に出した。
その鳥を入手した他のブリーダーたちが自分の鳥と比べ、外観や遺伝の仕方などが同一であると確認できたことから名前が「フロリダファンシー」に統一された。
ヨーロッパのイザベルに比べるとずいぶん近年になってから出来た品種である。

そのようにしてアメリカでフロリダファンシーが新しい変異品種として確立されたあと、ヨーロッパからそれを輸入したいという申し入れはなかった。なのでヨーロッパにフロリダファンシーはいない。
すでにイザベルが古くからいるわけなので、ずっと後になってアメリカで同じ鳥が出来ただけと考えたならそれは当然と思う。

2種が同一のものであると欧・米双方が考えた理由は、この2種ともに灰色のバージョンと白いバージョンがあるからである。

フロリダファンシーは不完全優性遺伝だとされている。(じっさい事実そうなのであるが)
もし劣性遺伝なら、白いFFをノーマルグレイと交配するとノーマルが生まれる。
もし優性遺伝なら、白いFF×ノーマルでは全部が白いFFに生まれる。(あるいはノーマルと白いFFが半々)
しかし実際は 白いFF×ノーマル では薄灰色の鳥が生まれるのである。
つまりこれがFFのシングルファクターである。
  (その薄灰色のFFシングルファクターを「シルバーイザベル」と呼んでいたが、
   DSとISの結合型かと誤解されることを危惧して「フロリダパステル」と改名された)
フロリダファンシーと呼ぶ白い鳥は、ダブルファクターの時の姿なのである。
シングルの時とダブルの時で発現する色に違いがあるので「不完全優性」は正しい。

薄灰色のFFシングルファクターを見てヨーロッパのグレーイザベルとイコールだと双方が考えたことから「同一」という見解が生まれたわけである。

しかしヨーロッパのイザベルは劣性遺伝である。
詳しくはイザベルのページに書いたとおりだが、イザベルの真の姿は薄灰色であり、フォーン遺伝子と結合し「変異結合種」となったフォーンイザベルの姿がFFとそっくりなのである。
ここで何かがおかしい、と疑問が出てくるが、その謎を解明するためだけに欧・米双方がお互いの鳥を輸入し合おうなどはしなかった。

ヨーロッパからのフロリダファンシーへのアクセスはなかったが、その間にもアメリカではFFにブラックブレストを結合させた「Phaeo(フェオ)」や「オレンジブレスト・ブラックフェイス」の作出に人気があったため、常に輸入鳥の流入があった。

そしてアメリカのブリーダーたちはかねてよりヨーロッパの「Ultimate」(=オールオレンジ・イザベル)の写真を見て衝撃を受けていた。そして自国でFFが確立したことによりイザベルのかわりにFFを使って「オールオレンジ・FF」を作ることが憧れとなり、オレンジブレストがすでに結合したブラックブレストやブラックフェイスそのほかを輸入した。
その輸入鳥のなかに「劣性遺伝変異であるイザベル」のスプリットを持つ鳥がまぎれてアメリカに入ってきたのである。

ここからロイ・ベッカム氏による検証がはじまるわけだが、まずスプリットとして運ばれてきたイザベル遺伝子の確定と抽出、それらのために行われる選択ブリーディング、その後でFFとISの違いや関係性をいくつかの繁殖結果をふまえて検証する、それらに要した期間が短かったわけはない。
その間「おそらく同一であろうと考えられている」という曖昧な表現でいてもらったのである。

ロイ氏のウェブサイトには彼が行った検証方法と結果が詳細に書かれているが、要約する。

まず最初、輸入したブラックチークを繁殖し、同じ系統の鳥同士で掛け合わせをした時に「グレーイザベル」が出現した。
そこでロイ氏はこの鳥をもとにブラックチークなど他の遺伝子を排除していくような掛け合わせに考慮しつつフォーンとイザベルを結合させ「フォーンイザベル」をつくる計画を立て、2〜3世代の後にフォーンイザベルを作出した。

はじめから判っていたことだがやはり、イザベルがFFに似た「白いイザベル」となるためには性染色体上にフォーン遺伝子を必要とする。
しかしフロリダファンシーは白くなるためにフォーン遺伝子はあってもなくても関係ないのである。ただFF遺伝子を1個持つか2個持つかでグレーになるか白くなるかが決まる。
ここでもう2種が違うものであるのは確実である。


次に2つの変異の関係性を検証するためにロイ氏は、輸入鳥の系統が入っていないと信頼できる自分のフロリダファンシーの系統から鳥を選び、オスとメスを入れ替えたり、F1をノーマルと交配して遺伝子を再びばらして結果を見たりしながらFFとイザベルの掛け合わせを何世代か試した。

<< 結論 >>
アメリカのフロリダファンシーとヨーロッパのイザベルは複対立遺伝の関係である。

複対立遺伝というとライトバックとCFWの関係を思い出すが、あれとは少し異なる。

FFダブルファクター × グレーイザベル(フォーンスプリット無し)
2種がまったく別の変異であるならノーマルの仔が生まれてくるはずである。
しかし結果はとにかく全ての仔が白いタイプとなって生まれる。
この白い鳥は「FF遺伝子1個とイザベル遺伝子1個」の鳥である。フォーン遺伝子は持っていない。
それなのにFFダブルファクターあるいはフルなフォーンイザベルと同様の外観を表す。
以下省略

まだ研究は続行中とのことである。
信頼できる結果をだせる最小限のサンプルで実験し導き出した結論である。
今後この結果をふまえてアメリカのブリーダーたちが実例を挙げてくるとき、もっと多くのことがわかってくるのかもしれない。
またなにか新しい発表があったら、ここに追記したいと思う。 (2008年3月1日)

参考文献:Welcom to eFinchi.com(by Roy Bekham)  http://www.efinch.com/
      :Acadiana Aviaries Franklin,LA(by Garrie Landry) http://www.zebrafinch.com/


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